肉体的、精神的、そして社会的に良好な状態を指す「ウェルビーイング(well-being)」。
心理面でのウェルビーイングのための手段として、浸透しているのが「マインドフルネス」です。
判断することなく今この瞬間に注意を向け続ける実践技法である「マインドフルネス」。
聞いたことはあるけれど実際にはよく分からないという方は多いはず。筆者もその一人です。
そこで、マインドフルネスに関してセミナーなどを開催している森夕花さんにインタビュー。
インタビュー前編、「マインドフルネス」とは?得られる“体験”とセミナーのメリットに続いて、後編では「マインドフル」とはどういった状態か、初心者がすぐにできる「マインドフルネス」のアイデアについてお話を伺いました!
初心者でも今すぐ出来る!マインドフルネスのアイデア
好奇心を持つことと、ときめくこと
――初心者が手軽に生活に取り入れられるマインドフルネスのアイデアがあれば教えてください。
森:好奇心を持つこと、ときめくことですね。
講座の最初に皆さんに「最近ときめきましたか?」と質問するのですが、皆さん「ときめき?」とクエスチョンマークになるんです。
ときめかなくなるということは、視点が固定化されてしまっているということなんですね。
日々色々な新しいものに出会っているし変化があるはずなのにそれに気付かない=ときめかないというのは、生きながら死んでいるような状態かもしれません。
同じ様な質問を子供たちにしたら「こんな面白いことがあったよ!」とどんどん出てくる。
世界が驚きや感動にあふれていて、どんどん楽しいことが出てくるんです。大人の皆さんにももっと好奇心を持ってほしいんです。
具体的に何をするかというと、「いつもの通勤のルートをちょっと変えてみてください」と言うんです。
知らないところを訪れるときはマップなどを使わずに直感で歩いてみるとか。私たちはどうしても日々生産効率が良い方を選ぶのですが、迷っちゃうかもしれないし、遠回りかもしれないけれど直感で歩くことによって「こんなお店あったんだ!」「ここの公園素敵だな」と発見がたくさんあって、心が動くと思います。この心が動くということが大切です。
時には直感に従うこと
――毎日色々なことをルーティーン化してしまって、そうすると発見することも無いですよね…!
森:いつもとは違う選択をしたり、時には直感に従うこと。
「このお店素敵だな」と思っても、時間が無いとか言い訳をして、自分の気持ちをスルーしてしまう。でも気になったら入っちゃう!
直感は自分の魂からのメッセージでもあるので、忘れていた大切な何かに気付かせてくれることがよくあります。
直感に従い、自分のハートが喜ぶ状態がまさにマインドフルネスやウェルビーイングなのだと思います。
失敗から得るものがいくつもある
――今流行している“タイパ”(タイムパフォーマンス)という言葉にもある様に、効率重視が蔓延している現状がありますよね。
森:みんな「失敗したくない」気持ちが強いんですよね。なので、調べて、ツールを使って、効率よく動こうとする。
でも失敗から学ぶことってたくさんあるし、私自身も失敗から得たものがいくつもあります。
ドイツに留学していた時、その後の私の人生を変えるような出会いがあったのですが、その方との出会いは私がお財布を落としたことから始まっています。
払わないといけない家賃も入っていたし、どうしよう…と落ち込んでいたら、「拾った方がいる」という連絡をもらって、その方に会いに行きました。
そうしたら、その方は、100年前の農家をリノベーションして暮らしている方で、質素だけれど真に豊かな生き方をされていていました。
物質では得られない真の豊かさをたくさん教えていただきました。そこから25年以上親交が続いていました。
失敗やピンチが自分にとって大切な出来事に変わることもあるので、失敗を怖がらないで欲しいなと思います。
――これは私が日々感じていることなのですが、メイクやファッションでも骨格診断や顔タイプ診断などが当たり前になり「私はこれしか着ない!(選ばない)」という様に、ガチガチになっていることが多いのはもったいないなと。
森:選択している様で、実は、時代の空気感みたいなものがあって、その空気感によって選択させられている。
自分が良いと思って選択しているつもりでも、そうじゃない。
本当に自分の中の喜びによって選択していることってどれだけあるのかな?と考えてみてほしいです。
「マインドフルな状態」とは?
――今自分の生活を振り返っても、本当の意味での“選択”って、実際にはちゃんと出来ていないのかもしれません。
これからは感性の時代が来る
森:「これからは感性の時代が来る」と思い、京都芸術大学に一昨年入学して、今年の春卒業したのですが、素晴らしい先生にも恵まれ、大学ではデザイン思考やアート思考、文化・伝統・芸術全般を学びました。
世界はデザインで出来ていて、そのデザインを理解することで生活や社会への見方が広がる。
そして感性を高めることで、創造的に、豊かに生きることができる。まさに生きるための思考術を学びました。
日常の中にデザインがあふれていますが、私たちは何の疑問も持たずにそれを使っています。
無意識に使っているものをよく見てみよう
――無意識に使っているものをよく見てみるということですね。
森:例えば、当たり前になっているペットボトルのフタのギザギザは何でついているんだろう? ドアノブってどうしてこの形なのかな? ということを改めて問い、観察してみる。
新たな視点で見つめ直してみることもマインドフルネスに通じるんです。もう一度自分のまなざしをデザインする。
ゼロにすることは難しいかもしれないけれど、一度問い直して見る。
問い直すことによって、当たり前の世界を改めて見直し、今見ているデザイン(風景)を別の角度から見ると、違った世界が立ち現れてきます。
日々の生活で当たり前になっているものに、問いを持つことが大切ということですね。
ヨシタケシンスケさんの本には「問い」があるのですごく好きなんです。(インタビュー前編にて紹介している、森さんお気に入りの絵本作家)
偏っていたものを中庸に戻すということがマインドフルな状態
――当たり前にあふれているもの「問い」を持つ。大切な視点ですね。
森:偏っていたものを中庸に戻すということがマインドフルな状態ですし、ウェルビーイングだと思うんですね。
どちらかに考えが偏ってしまっていると、大切なものは見えなくなってしまう。それを「問い」によって真ん中に戻すんです。
セミナーに参加した方が「本当の自分に戻れた」という言葉を言ってくださるのは、自分の立ち位置がズレていたことに気付いたり、本来のまなざしに戻れたということだと思うんです。
自分が知っている自分はわずか5%未満
――森さんとお話していると、とても元気が出ますし、自分のことをすごく好きになったり、自分の魅力や可能性に気付ける方が多そうです!
森:ありがとうございます。本当に、皆さん一人ひとりが素晴らしい存在なんです。
どうしても教育や成績、世間一般の評価軸によって「あなたはこうです」と思わされてしまう。
でも本当にそうですか?と私は思います。自分が知っている自分はわずか5%未満です。
95%以上は無意識の中に眠っています。その眠っている魅力を見つけてほしいんです。
新しいことや、やりたいことをやってみて周りに「おかしい」って思われるかもしれないけれど、それでもいいと思います。
それで、自分自身が輝けていたら、「素敵だな」と言ってくれる人が現れるかもしれない。
誰かに決められた枠や価値観にとらわれずに自分らしく生きることがウェルビーイングだと思います。
もちろん社会生活に必要なルールもありますが、枠をちょっとだけ超えてみる勇気を持てたらいいよ、面白いよと思います。
心に関する勉強をはじめたきっかけ
――ここまで素敵はお話を伺ってきましたが、森さんがこうした心に関する勉強をはじめたきっかけはどんなことがあったのでしょうか?
森:バブル時代に金融業界で働いていたのですが、みんな浮き足だっている感じがして、少し違和感を持っていました。
仕事が落ち着いてきた時にもっと世界が見たいなと思い、留学を考え、もともと音楽をやっていたのでドイツへの留学を決めました。
今では日本でも「SDGs」が盛んに言われていますが、私が90年代中頃に訪れたドイツのフライブルクでは、当時からものを大切にする暮らしを取り入れていました。
ゴミをきちんと分別してリサイクルしたり、再利用をする生活が当たり前でした。
私は東京で「進んだ」生活をしていると思っていたので、最初ドイツの不便な暮らしを「遅れている」と感じたのですが、実は逆でドイツの方が精神的にずっと進んだ生活をしていたということに気付きました。
人を助けるためにはまず、自分自身の悩みをクリアにする
――90年代は使い捨てが当たり前な時代でしたものね。
森:そうなんですよね。ドイツで暮らした2年間は自分の人生を見直すきっかけになりました。また、その当時ユーゴスラビアで内戦があり、語学学校で難民の方々と出会ったのですが、そこでもたくさん考えることがあったんですね。
そもそも、それまではこの時代に戦争があるということ自体、考えていませんでしたから、自分はすごく無知だったんだと知ることになりました。
日本に帰国してまた同じ様に忙しい日々を送っていたのですが、東ちづるさんがドイツの平和村で、戦争で傷ついた子供たちを癒すという取り組みをされている姿をテレビで観て。
「私はこういうことがしたかったんだ」とものすごく衝撃を受けて。私はこれからの人生、子供たちや困っている方達を助ける活動がしたいと直感的に感じました。
その為にはまず自分自身を知って、自分自身の悩みや苦しみをクリアしていかなければ、人のことを助けるなど出来ない。
そう思ってそこから様々な勉強をはじめました。インド哲学や禅との出会いなどを経て、心に関するお仕事を23年くらいしています。
――「人を助けるためにはまず、自分自身の悩みをクリアにする」というのはなるほどなと思いました。
森:私にその考え方を教えてくれた先生がいるのですが、人の苦しみや深い悲しみと向き合う時、自分自身の悩みや痛みが昇華出来ていないととても苦しくなりますから。
自分の内側から声が聞こえる時がある
――自分の中の悩みってどうしてもモヤモヤ、ずっとつきまとってくるというか。一番向き合うのが難しいですよね。
森:そうなんですよね。私もそうでした。色々なことがこんがらがってしまって、自分が分からなくなった時に、自分の内側から声が聞こえる時があるんですね。
頭の中が悩み事でいっぱいの時ってそういった声が聞こえないんですが、何かを手放した時に聞こえる時がある。
内側から「ただ複雑に絡まっているだけからひとつひとつ解きほぐしなさい」という声が聞こえるんです。
「何が自分の中でこんがらがっているんだろう」と書き出してみると、悩みの根っこが見えてくるんです。
「自分は恥をかくことが嫌なんだ」。するとこんな言葉が浮かんでくるんです。「そんなプライドは捨てて人に聞いてみよう。頼ってみよう」と。
すると悩んでいたことが解決出来る。一つが解決出来ると、糸口が見つかって、二つ三つと悩みが解決出来ることもあります。
もちろん、小さな頃から抱えていた傷であったり、解きほぐすことが難しい悩みもあります。
そういう時は「解決出来るものからしちゃえ!」と。いきなり重い悩みから取り掛かるとイヤになってしまうので。
頑張り屋さんは全部解決して綺麗にしようとするんですけれど、それはなかなか大変です。
軽いものから向き合って、「それでいいんだよ」と自分に許可を与えてあげると、最後に“ラスボス”が出てきます(笑)。
ラスボスといっても、自分の中の恐れは、意外とお化け屋敷の人形のようなもので、自分で想像して作り出してしまっていることがよくあります。
だから、先ほどお話した様なアート表現によって楽しみながら、向き合うのが良いなと思います。
私のセミナーでは複数人でワークをやるので、みんなで話していくうちに「あっ、そうじゃないんだね」って誰かの発言から気付くことが出来るんですよね。
ありのままの自分を認めてあげるのが大事
――「自分に許可を与える」というのはとても素敵な表現ですね。
森:結局、自分の敵って自分なんです。いつも、自分が自分に一番厳しい言葉をかけて、自分の生きるエネルギーを奪ってしまっているんです。
本当は、自分が自分の一番の応援者であってほしい。私も、昔は自分に厳しすぎたし、自分のことが大嫌いだったのですが、今は一番の応援者でいたいと思っています。
誰が何をいうと、どんな失敗をしようと「あなたは素晴らしいんだよ」「次はきっとうまく行くよ」と自分に声をかけてあげる様にしています。
何かが出来たから許可するのではなくて、「今のままで十分じゃん」ということなんですよね。
ありのままの自分を認めてあげる、それは、「あなたはあなたのままでいい」という許可を自分に与えてあげることなんです。
森夕花:カングロ株式会社 取締役執行役員/ライフコーチ/マインドフルネスアート研究家
神奈川県横浜生まれ。尚美高等音楽学院卒業。京都芸術大学芸術学部卒業。1993年、ドイツの環境先進都市フライブルクに留学。自然と調和したライフスタイルを学ぶ。2002年より心と身体を癒すヒーリング・カウンセラーとして活動。2015年から企業のライフコーチとして、個人セッション、研修等を行っている。現在、ライフコーチの他、「大人のためのアート思考講座」「Philoarts研究会」「マインドフルネスアートワークショップ」「サステナ塾」「目覚めの瞑想会」など講座、ワークショップを中心に活動を行っている。
参照リンク:マインドフルネスとウェルビーイング
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(ウェルなわたし/ 中村 梢)