社説:最賃千円超え 物価に見合う上積み努力を

 2023年度の最低賃金(最賃)について、全国平均で時給1002円とし、現在より41円引き上げる目安額を、厚生労働省の中央最低賃金審議会がまとめた。

 千円超えは初めてで、時給で示す現在の方式となった02年度以降最大の上げ幅だ。

 全国平均の引き上げ率は4.3%で、新型コロナウイルス禍に陥った20年度を除いて、前年度比3%程度だった近年の水準を大きく上回った。

 ロシアのウクライナ侵攻などで物価高が続く中、実質賃金は目減りしている。引き上げは妥当だが、先進国の水準と比べると遠く及ばす、十分とは言えない。物価に見合った賃金へ一段の努力が求められよう。

 今回の審議会は、「コロナ禍後」初めての開催で、社会・経済活動の回復と物価高騰を反映した形になった。

 直近の6月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月比3.3%の上昇で、22カ月連続で前年同月を上回った。輸入物価を押し上げる円安も進行し、今秋にかけて食料品を中心にさらなる値上げが予定されている。

 生活不安を訴える労働者側をはじめとする世論を強く意識し、今春闘で高い賃上げ回答が続いたことを踏まえた。

 岸田文雄首相が、6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」に「時給千円」を盛り込んで既定路線にしたことも後押しになったと言えよう。

 経営者側も、物価高などを考慮した引き上げは、「やむを得ない」との見方は共通する。

 ただ、中小企業にとっては、最賃の上昇による人件費の増大は経営を圧迫する。

 パート従業員らが、税などで優遇される配偶者の扶養から外れないよう、年収を一定以下に抑えるため就労時間を減らし、人手不足に拍車がかかるのではないかとの懸念も少なくない。

 だからといって、最賃の引き上げの流れを止めてはなるまい。幅広い所得の底上げは、経済の好循環を実現する土台にほかならないからだ。

 賃上げの原資となる適正な価格転嫁ができるように、政府は監視や支援を強めるなど環境を整えねばならない。

 今回の目安額から、経済状況に応じて都道府県を分ける区分が、従来の四つから、東京などのA、京都や滋賀などを含むB、沖縄などが入るCの三つに再編された。

 最低区分を廃止し、中間層を増やすことで、全体の水準の底上げや地域間格差の是正につなげる狙いだ。

 ただ、現行で最高である東京の1072円と、最少にとどまる沖縄などの853円には大きな隔たりがある。

 賃金の高い大都市圏への人口流出に歯止めをかけるため、各地方審議会は積極的な上積みに向けて議論してほしい。

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