社説:日銀の緩和修正 柔軟さと市場対話こそ

 日銀は、植田和男総裁の就任から約4カ月となる7月の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の修正に動いた。

 誘導対象の長期金利の上限0.5%程度をめどとし、市場の動向次第で1%まで上昇するのを認めると決めた。

 日銀が国債の大量買い入れで金利上昇を抑える手法に幅を持たせ、債券市場のゆがみなど副作用を軽減する狙いだ。

 経済状況に応じ、柔軟な政策運営を図るのは当然である。「アベノミクス」の起爆剤として、10年も続く大規模緩和のかたくなさを見直す動きといえよう。

 一方、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導する緩和の大枠は変えなかった。

 修正は昨年12月、長期金利の上限を0.25%から0.5%程度に引き上げたのに続く。今回、植田氏は、金利操作を柔軟化し「金融緩和の持続性を高めた」と説明し、出口への一歩との見方を否定した。賃金上昇を伴った持続的、安定的な物価上昇が見通せないとの判断を維持しているようだ。

 見据えるのは、物価の上振れである。消費者物価は昨年4月以降、目標の上昇率2%を上回る。今回修正した物価見通しで2023年度の上昇率を2.5%と4月時点の1.8%から引き上げた。

 企業の値上げの動きが長引き、強まる金利上昇の圧力を無理に抑えようとすれば、市場機能の低下など弊害が増す懸念は否めない。

 また、植田氏は為替を含む金融市場の変動抑制も修正の目的と説明した。利上げを続ける米欧との金利差を背景に、円安と物価高が再加速することへの警戒だろう。政府の意向とも軌を一にする。

 日銀が動かなければ円安と市場の弊害が広がる一方、緩和縮小と評価されれば投機的な金利上昇圧力が高まる。上限0.5%を「めど」として残したのは苦肉の策だろう。力ずくの金利抑制策の限界を示すものに他なるまい。

 日銀の裁量が広がるため、植田氏のいう「明確で分かりやすい説明」で市場と対話し、出口の検討につなげてほしい。

 事実上の上限引き上げを受けた国債市場で、長期金利は一時0.6%を超え、約9年ぶりの高水準となった。連動する住宅ローンの固定金利を大手銀行は8月から引き上げた。家計をはじめ景気を冷やす恐れもある。丁寧なかじ取りが求められる。

 政府も金融頼みのアベノミクスの失敗を踏まえ、日銀の国債買い支えで緩んだ財政規律の立て直しと経済の足腰強化を迫られよう。

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