LRT西側延長、課題や懸念も 東側の整備効果が鍵に 来年中の事業申請目指す 発進LRT⑧

JR宇都宮駅西口から延びる大通りには、多くの路線バスが行き交う=7月28日午後、JR宇都宮駅西口のペデストリアンデッキから

 「西側の経済効果は税収や消費を含め約810億円。東側以上に、相当なにぎわいが生まれる」。7月に宇都宮市で開かれたNPO法人主催の講演会。佐藤栄一(さとうえいいち)市長は、次世代型路面電車(LRT)を基軸とした公共交通の再構築やまちづくりの重要性を掲げ、JR宇都宮駅西側延伸の意義を熱い口調で訴えた。

 東側の開業が迫る中、市民団体が西側延伸を祈念した催しを行うなど、西側の早期整備を求める声は早くも高まっている。市中心部を地盤とする市議の一人は「LRTは民間投資を誘発する起爆剤。空洞化する街をつくりかえる戦後最大のチャンスだ」と言い切る。

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 西側の整備区間は、駅東口停留場から教育会館付近(駒生1丁目)の約5キロ。大谷付近までを検討区間とする。トランジットセンターは東武宇都宮駅周辺と桜通り十文字の2カ所を想定。2030年代前半の開業へ向け、来年中に軌道事業を進めるための特許申請を目指す。

 東側整備の平均距離単価を基に類推した事業規模は約400億円。JR駅北側を高架軌道で横断する計画は「技術的にも最大のヤマ場」(市LRT整備課)とされ、整備費増の要因にもなりうる。

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 「路線バスの街に、多額の費用をかけて導入する必要があるのか」。LRTに反対する市民団体は7月28日、市に延伸撤回を求める要望書を提出した。上田憲一(うえだけんいち)代表は「十分な比較検証なくLRTありきで突き進んできたことが最大の問題」と指摘する。

 バスが1日約2100本集結する大通り。市は西側延伸に伴い、バス空白地域などに路線を再編して振り分ける考えだ。それでも、拡幅を伴わない大通りへの軌道敷設に、道路環境の悪化を懸念する声もある。

 JR駅西口や二荒山神社周辺の再開発事業、既存事業との整合性、住民の合意形成…。LRT整備に合わせて開発が進んだ東側と異なり、西側に立ちふさがる課題は多い。

 「まず東側の整備効果の見極めが必要」。宇都宮市長時代から推進してきた福田富一(ふくだとみかず)知事は指摘する。「一人でも多く乗車してもらい有用性の理解が進めば、西側延伸の声も湧き上がるのではないか」

 佐藤市長が「東だけでは不十分。西も整備して初めて形となる」と描く県都の姿。延伸への賛否がある中、東側の経験と成果を踏まえ、どう事業を推進するのか。住民の理解促進や官民連携に向け、行政のかじ取りはますます重みを増していく。

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