社説:高浜原発再稼働 老朽の不安拭えぬまま

 数々の懸念を置き去りにしたままではないか。

 関西電力は、高浜原発1号機(福井県高浜町)を12年ぶりに再稼働させた。1974年11月の運転開始から48年たつ国内で最も古い原発だ。2011年の東日本大震災の2カ月前、定期点検で停止して以来である。

 東京電力福島第1原発事故を受け、原発の運転期間は「原則40年」と定められた。例外として1回限り20年の延長を認める規定を使い、40年を超えて稼働するのは21年の美浜原発3号機に続いて2例目だ。

 岸田文雄政権は昨年、エネルギーの安定確保や脱炭素を理由に「原発の最大限活用」を打ち出した。事故後に「原発依存を可能な限り低減する」としてきた政府方針の大転換で、既存原発の再稼働を加速させている。

 だが、福島事故があらわにした原発の安全面や住民避難などの根本的課題は解決しておらず、「回帰」に突き進むのは危うい。

 運転期間ルールは、老朽化のリスクの低減を考慮したものだ。原発設備は放射線でもろくなりやすく、停止中も経年劣化が進む。40年以上前の設計は古く、交換できない心臓部の圧力容器などの限界は予測が困難とされるからだ。

 岸田政権は今年5月、さらに60年超の運転も可能にする法律を成立させた。原則40年の枠組みのまま、延長時に安全審査などに伴う停止期間を除外できるとした。

 だが、安全性の確認方法の具体化は先送りされて国会審議は深まらず、老朽原発を使い続けることへの不安は拭えないままだ。

 重大事故が起きた際の周辺住民の避難対策も大きな懸念材料である。高浜1号機から半径5キロ内は舞鶴市の一部が含まれ、同30キロ圏は高島市にまでかかっている。

 9月には、運転開始47年の高浜2号機も再開を予定し、福井県内で計7基が稼働することになる。狭い道路の被災や渋滞、雪の影響などで計画通り避難できるか、実効性が不安視されている。

 使用済み核燃料も行き場がなく、高浜原発の燃料プールはあと約5年で満杯になるという。関電は今年中に中間貯蔵施設の県外候補地を確定させると約束してきたが、先月に貯蔵量の5%をフランスに搬出する計画を示した段階だ。後始末のめどを付けぬまま、再稼働で増やし続けるのは無責任である。

 未曽有の福島事故の教訓を忘れたかのような政府や関電の振る舞いは、国民の不信を深めるばかりではないか。

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