ALS嘱託殺人公判、元医師の被告「事前に知らされていなかった」共謀否定

京都地裁

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者から依頼され、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人などの罪に問われた元医師の山本直樹被告(46)=医師免許取り消し=の公判が3日、京都地裁(川上宏裁判長)であった。被告人質問で山本被告は「何をするか事前に知らされていなかった。納得していない」などと述べ、殺害の共謀を改めて否定した。

 山本被告は5月の初公判で、共犯とされる医師の大久保愉一(よしかず)被告(45)とともに京都市中京区のALS患者林優里(ゆり)さん=当時(51)=の自宅に行ったことは認めた上で、「殺害したのは大久保被告だ」として無罪を訴えていた。

 弁護側の質問で山本被告は、現場の状況について、大久保被告がシリンジを右手に持って胃にチューブで栄養を送る「胃ろう」に黄色い液体を注入しているのが見えたと述べた。「死に至らせる薬かもしれないと頭をよぎったが、深く考える余裕はなかった」とし、実際に何をしたかを聞かされたのは、東京に戻る道中だったと強調した。

 事件当日に偽名を名乗るよう指示され、林さんの部屋の入り口付近に終始立っていたと言及。ヘルパーから訪問者の氏名を記入するよう求められ応じたことはあったが、「(見張り役として)ドアが開かないように立ちふさがったことはない」と断言した。

 大久保被告との関係性にも触れ、医師免許の受験資格を不正に得る方法を指南されたことなどから「弱みを握られていた」と言及。林さんに対しては「申し訳ない気持ちはあるが、自らの尊厳を達成したのだろうと思う」と述べた。

 検察側の質問には、安楽死に強い関心を抱いていた大久保被告が、将来的に実行する可能性はあると認識していたが、「面識のない林さんにいきなりするとは思わなかった」と主張。山本被告の口座に林さんから振り込まれた130万円は「自分の事業に流用したのは確かだが、(大久保被告に)返すつもりだった」などとした。

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