社説:防衛白書 国民の理解得られるか

 2023年版の防衛白書が公表された。中国やロシア、北朝鮮の軍備増強を巻頭で特集し「戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」と強調した。

 白書は日本の防衛の現状と課題、取り組みについて周知を図ることを目的に毎年刊行される。

 今回は昨年12月に国家安全保障戦略など安保関連3文書が改定されて初めての白書となる。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や防衛関連予算の「倍増」など、岸田文雄政権による安保政策の大転換を受けた。

 だが、これまでの政府方針を大きく踏み越えた理由が十分説明されているとは言えない。5年で総額43兆円に上る防衛力整備を正当化するために、危機感をアピールする姿勢ばかりが目立つ。

 中国については「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮は「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」―などと前年版より警戒感を高めた表現が相次ぐ。

 一方で「侵攻を抑止する鍵」とする反撃能力については運用や、手段となる長射程ミサイルなどの詳しい記載がない。「専守防衛の考え方を変更するものではない」「個別具体的な状況に照らして判断する」と政府説明を繰り返すも空々しく響く。

 国際法違反の先制攻撃にならないか、周辺国との軍拡競争を招かないかといった疑問や懸念が、これでは一向に解消されない。

 3文書を解説する章ではウクライナが侵攻されたのは抑止力不足としたが、一面的に過ぎる。

 そもそも抑止力を期待しても、相手が対抗力を強めれば緊張が高まるのが実態であり、リスクについても説明が求められる。

 多くの人が安保環境の変化を感じているのは確かだろう。だが世論調査では43兆円への増額については約6割、財源確保ための増税方針には8割が反対している。国民の幅広い理解を得られていない現実を直視するべきではないか。

 武力に偏重せず、外交を軸に周辺国との緊張緩和を図るのが、平和憲法を持つ日本の防衛の基本だということを忘れてはならない。

 今回の白書は自衛隊のハラスメント対策の項目を新設した。元自衛官の女性が在籍時の性被害を訴えた事件を踏まえたものだが、以前から何度も問題化していた。ようやくの感が拭えない。

 どんな装備も人あってこそである。定員割れや中途退職の増加が続く組織の在り方に危機感を持ってほしい。

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