M&Aに利益相反問題のない「片側FA」という選択肢を ~ マクサス・コーポレートアドバイザリー・森山保社長 単独インタビュー ~

事業再生や事業承継の局面でのM&Aの活用はメジャーな手段となっている。ただ、2020年12月に河野太郎・規制改革担当大臣(当時)が自身のブログで指摘したように、仲介(両手仲介)によるM&Aは利益相反の問題を孕んでいる。
国内の中規模企業のM&Aを中心に実績をあげるマクサス・コーポレートアドバイザリー(株)(TSR企業コード:300146230、東京都中央区)の森山保・代表取締役社長は、こうした状況に「両手仲介には顧客利益の最大化の視点が欠けている」と警鐘を鳴らす。
両手仲介の問題点からM&A市場の今後などを東京商工リサーチが聞いた。


―経歴や創業の経緯について

太田昭和監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)からコンサルティング会社を経て、2002年に野村證券企業情報部に入社した。この時期は、ゼネコンや不動産関係などのバブル後遺症を体現したような案件や、ダイエーやカネボウなどの産業再生機構の案件など、多くの事業再生案件に携わった。2007年には、フロンティア・マネジメントの創業に参画し、M&A部門の責任者をしていた。こうした経験を経て、2013年にマクサス・コーポレートアドバイザリーを設立した。

―業務内容や手掛ける案件は

M&Aアドバイザリーを中心に、M&Aによる事業承継コンサルティングや事業再生アドバイザーなどを手掛けている。アドバイザリーでは、譲渡金額が5億~数十億円程度のミドルサイズを中心に、年間30件前後を担当している。M&Aリーグテーブルにも毎年上位にランキングされている。

―事業の特徴は

両手仲介ではなく、片側のファイナンシャル・アドバイザー(FA)であることだ。M&Aは日本では仲介業のイメージが強い。仲介会社が売り手と買い手の両方と契約し、双方をマッチングするやり方だ。ただ、高く売りたい売り手と、安く買いたい買い手の両方の味方ができるのか。両手仲介では、どうしても利益相反の問題が出てくる。不動産のように相場を把握できる場合はあまり問題にならないが、M&Aでは金額以外にも、会社ごとに異なる論点や条件が多く単純ではない。不動産のような仲介方式は、M&Aにおける顧客利益最大化のためには向いていない。
中小企業のように1社では報酬を払う余力がなく、売り手と買い手で手数料を折半せざるを得ないケースであれば、両手仲介でいい場合もあるだろう。100の報酬を50×2に折半するようなイメージだ。だがそれも、売り手と買い手の両方から100ずつ報酬を取って、結局仲介業者に200入るケースもある。こうした現状は、大変問題が大きいと思っている。

―人員の構成について

メンバーは、公認会計士や税理士、金融機関出身者などが中心だ。会計士の割合が高い。M&Aは法律や会計、税務、ファイナンスはもちろんのこと、対象の業界についてもある程度広く深く知っている必要がある。必ずしも会計士でなければならないというわけではないが、少なくとも数字には強い人が多いので、そこから鍛えて詳しい分野を広げていく形だ。
法律面で専門家が必要なケースは、弁護士と連携する。一口に弁護士といっても、「再生に強い」「ファイナンスに強い」と得意分野は様々なので、案件毎に協働することになる。

―M&A市場について

創業した2013年当時のM&A市場は今と比べるとそこまで大きくなかった。今は急激に拡大している。レコフデータの統計によると、実施件数では、国内企業同士はリーマン・ショック後をボトムに右肩上がりで推移している。一方、金額(買収額等の合計)ベースだと国内企業同士の案件は近年ほとんど増えていない。国内企業の大型再編はある程度終わり、事業承継関係が多くなっている。今はM&A業者の参入がどんどん増えているが、今後ある程度淘汰も進むかもしれない。ユーザーの側でも理解が深まり、仲介の問題点もわかってくると、一定規模以上は専門のFAに依頼し、それ以外は仲介業者やインターネット上のプラットフォームを使うような形が定着していくのではないか。

―M&Aに関する問題意識は

この仕事に携わった時から両手仲介によるM&Aは構造的におかしいと思っていた。実際、片側FAなら好条件を引き出せるはずの会社が、契約形態を誤ったばかりに低い条件で譲渡してしまっていることがある。
また、酷いケースでは、買い手が仲介会社に対して手数料を上乗せし、安く買えるよう売り手を説得させることもあると聞く。買い手は多少手数料が上がっても、買収金額が下がる方がいい。また、仲介側も、一度きりの取引になる売り手より、今後も案件がある買い手を優先するようなことは起こり得る。本当にそうやって裏で結託しているケースもあると聞く。

―2020年3月に「中小M&Aガイドライン」が策定されるなど環境整備も進んでいる

ガイドラインは、仲介自体ではなく、不透明な報酬形態がダメだという問題意識が根底にあると思う。ガイドラインの改訂の動きもあり、重要事項説明のような形で利益相反の問題を入れようとしている(※1)と聞く。仲介を選ぶにしても、こういった流れを理解する必要があるだろう。

※1 2023年5月17日開催「第1回中小M&Aガイドライン見直し検討小委員会」で議論されている。

インタビューに答える森山社長

―専門家のレベルも問題になる

M&A支援機関登録制度の登録企業をみても、経験(設立年)の浅いアドバイザーが増えていることが分かる。M&Aは単にマッチングをすればいいだけだと思っている人もいる。
なかには、担当者に大きなノルマやインセンティブを課すことで、自身の成績を上げるためには自社の決算までに成果を出すように求めているM&A会社があるのも問題だ。売り手や買い手が時間をかけてちゃんとやろうとしている案件を、期限に押し込むためにM&A支援会社が無理矢理進めるような本末転倒のケースもある。

―報酬の算定方法は

再生案件などで株価がゼロの場合や株価のない事業譲渡の場合はどうするのかという議論もあるので、案件ごとに提案することにはなるが、基本的には株価レーマン方式(※2)だ。総資産レーマン方式が適切なケースも時にはあるが、基準があいまいなことが多く問題だ。具体的には、時価評価の問題や、どの時点の負債額を採用するかなどの問題がある。報酬額が請求書を見るまでわからないのもよくないだろう。株価であれば、譲渡価額や報酬も明確に分かる。

※2 レーマン方式=対象となる金額に一定の報酬率を乗じる計算方式。

―企業価値の算定時に将来キャッシュフローが重視されるようになってきたと感じるが

その通りだ。M&A案件の多いIT関連やサービス業は古くからのアセットを持っていないところが多いので、アセットばかり見ても仕方ない。B/Sの価値を見ないわけではないが、基本的には将来キャッシュフローを現在価値で計算する。

―強みや評価されているポイントは

「最高の技能とサービスを提供する」という企業理念通り、専門性の高さだけでなく、サービス業としてやるというところにはこだわっている。一回儲かればそれで終わりだと思っているM&A支援会社もあると感じるが、我々は一回きりではなく、長くお付き合いしていきましょうという発想でやっている。また、社員のレベルの維持のため、創業時から毎週欠かさず勉強会を開いている。外部から講師を呼んでセミナーをすることもある。

―コロナ禍などの環境変化で苦労したことは

いつも苦労しかない(笑)。将来キャッシュフローと言っても、「結局そんなの分からないよね」となるし、事業計画も全然違ってくる。ただ、そうは言っても、事業計画の合理性を精査することは必要だし、予測もいい加減なものであってはいけない。それをしっかりサポートしていくのが我々のバリュエーションだ。

―再生現場の現状は

2013年頃から徐々にリーマン・ショックや東日本大震災の影響が薄らいで、再生案件はほとんどなくなっていた。特に2017~18年頃からはベンチャーに出資する際のDDや優先株の設計などをよくやっていた。ただ、2023年に入り、感覚的には急激に再生案件が増えてきた印象だ。コロナ禍での強力な資金繰り支援の終了もあって企業倒産は増えているが、再生案件もそれに連動しているように思う。水面下で進んでいる案件もかなり多く、今後も増えるだろう。

―再生案件に対する立場は

2000年代初頭の再生案件が活発だった頃に現場の最前線にいた人たちの多くは第一線を退いている。当時の若手が再生に関するM&Aアドバイザーを続けているなら、今中核人材になっているだろうが、再生案件を15年も20年も続けている人はそう多くはない。そういった意味では、私は再生案件も多くやっていたので、再生型M&Aに関する土地勘をしっかり持ったアドバイザーの一人と言えるのではないか。

―今後の展望は

会社を何人の規模にしたいとか、上場したいとか、そういったことは特段考えていない。ただ、ミドルレンジのM&Aをサポートできる会社として、日本のM&A市場の発展に役に立っていきたい。専門性という強みを生かすため、しっかり教育してレベルを維持しつつ、さらにレベルアップもしていければと思う。

―M&Aを考えるオーナーに向けて

両手仲介と片側FAの違いをはじめ、M&A支援業者にはいろいろなタイプがある。事業承継などでM&Aを考えているなら、仲介には利益相反の問題もあるということを知った上で、いろいろな方に相談し、複数の業者から選ぶ方が、悔いのない事業承継に繋がるだろう。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年8月1日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

© 株式会社東京商工リサーチ