富山―上海便再開も「視界不良」 初日乗客ほとんど中国人

 コロナ禍で運休していた富山―上海の定期便が8日、3年半ぶりに運航を再開した。初日の搭乗率は上海発が56.3%、富山発が89.7%。富山県は「まずまずの出だし」(航空政策課)とみるが、県によると、乗客のほとんどが中国人だった。日本人のビザ(査証)取得に手間がかかることが影響したとみられる。東京電力福島第1原発の処理水を巡り、日中関係の悪化が懸念される中、ビザなし渡航の再開は当面は難しいとみられ、観光面では課題を残している。上海便の行方は「視界不良」といえそうだ。

 県によると、最大126人乗りの機材に対し、8日の搭乗者数は上海発富山着が71人、富山発上海着が113人だった。いずれも、日本人の利用はほぼなかった。

 富山―上海便を巡っては、県民が中国へ渡航するためのビザを新規取得するには、搭乗者本人が名古屋市内の申請センターを2往復する必要があり、発給までに40日以上かかるとされるなどハードルの高さが指摘されている。

 県の担当者は、初日の利用のほとんどが中国人だったことについて、ビザ取得の難しさに加えて「自国に帰省する人が多かったのではないか」と推察した。

 新田八朗知事は8日の会見で、再開した上海便の需要について問われ「航空会社がビザのハードルも考えた末の復便決定で、コメントすることでない」と言及を避けた。その上で、インバウンド(訪日客)の対応や、富山から海外を訪れる「アウトバウンド」の需要喚起策を進めるとした。

 上海便の需要拡大へ航空、旅行事業者らが取り組む中、新たな懸念材料として浮上しているのが東京電力福島第1原発の処理水問題だ。岸田文雄首相は、8月下旬から9月前半の間に処理水の海洋放出を開始する方向で検討に入り、放出に反対する中国の反発が必至となっている。

 中国政府は、日本政府による新型コロナ水際対策強化の対抗措置として日本人のビザ発給を一時停止した経緯があり、現在も日本への団体旅行の制限を継続している。ある県幹部は「処理水の問題が表面化すれば、ビザなし渡航の早期解決は難しくなり、観光は険しくなる」と警戒した。

 富山空港での国際線の再開は3年5カ月ぶり。富山―上海便は10月28日までの夏ダイヤ期間中、毎週火曜と土曜の週2便、計24便の運航を予定する。中国東方航空が運航し、子会社である上海航空の機材を使用。運航本数や機材は2020年2月の上海便運休前と同じとなる。上海便は運休前の5年間、搭乗率が60~70%台で推移していた。

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