シカの食害でオオキツネノカミソリ開花せず 別府市の猪の瀬戸湿原、個体数増が原因か【大分県】

例年ならオレンジ色に染めているがことしはほぼ全滅=1日、別府市東山の猪の瀬戸湿原
シカに食べられとみられるオオキツネノカミソリの葉=3月中旬
シカが入れない保護区画に咲くオオキツネノカミソリ=1日

 【別府】別府市東山の猪の瀬戸湿原に群生する「オオキツネノカミソリ」がシカの食害で開花しない状況となっている。例年は夏季に花を咲かせ一面がオレンジ色になるが、今年は草が生い茂っている。湿原を維持管理するNPO法人「猪の瀬戸湿原保全の会」によると、ヒガンバナ科で毒性があるため積極的に食べる対象ではなく、湿原周辺に生息する個体数の増加が原因と推測している。

 由布岳と鶴見岳に囲まれた猪の瀬戸湿原は標高約700メートルで広さは約38ヘクタール。阿蘇くじゅう国立公園の第1種特別地域。例年は猪の瀬戸バス停から南約400メートルに位置する水口山麓の林や斜面など約5千平方メートルに優しいオレンジ色の花が広がる。

 今年はほぼ全滅状態。保全の会が他の希少種を守るため柵を設けていた保護区画内でわずかに花を咲かせているという。2月、伸び始めた葉の新芽が食べられていることを確認した。かみ切られた跡でシカと断定した。同会メンバーの首藤房子さん(76)は「オオキツネノカミソリなど毒のある植物が被害に遭うことは今までなかった。シカの食害は深刻」と懸念する。 

 県自然保護推進室自然保護班は「全容は不明だが、同湿原や祖母山系で希少種の食害が起きていることは分かっている」と話す。

 保全の会はオオキツネノカミソリの被害が3~4年続き、湿原から姿を消すことを危惧。「シカが入れないように柵を張った保護区を数カ所設けたい」と対策を検討している。

 県森との共生推進室によると、県内の推定個体数は2010年度約5万7千頭。15年度は約11万3千頭まで倍増した。捕獲強化で20年度の推定値は約10万3千頭に減っているという。

 県内の推定頭数の推移は全国の傾向と一致している。自然保護活動をする関係者の中には現状を「高止まり」とみる人もいる。

 野生鳥獣被害の対策を担当する同室森林環境保護班は「依然として密度の高い地域がある。同湿原のようなシカの暮らしやすい草地などでは食べる物が不足し、苦手な植物も食べざるを得ない状態になっているのでは」と分析している。

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