日本語の地図、言葉のジオラマつくる 国語辞典編さん者・飯間浩明氏が講演

国語辞典編さんの仕事などについて聴いた山形県勢懇話会例会=山形市・山形グランドホテル

 山形県勢懇話会の第622回例会が10日、山形市の山形グランドホテルで開かれ、国語辞典編さん者の飯間浩明氏が「国語辞典に『いちまる』が載る日」と題し講演した。編集に加わった「三省堂国語辞典第8版」には「①」を「いちまる」と読む山形独特の言い回しなど、さまざまな方言が掲載されていることに触れ、「日常生活で方言は無視できない。日本語の地図をつくるのが私たちの仕事」と語った。以下は講演要旨。

 一口に国語辞典と言っても、いろんな種類があり、それぞれ編集方針が違う。私が作っている「三省堂国語辞典」は今の人が日常生活で使っている言葉に重点を置いており、「時代を映す辞書」を目指している。

 辞書を作る仕事は大きく四つある。基本となるのが使われている言葉を収集する「用例採集」だ。新語を中心に1万語以上を収集するので、そこから「取捨選択」し、「語釈執筆」を行う。その一方で、既に載っている言葉を見直す「手入れ」を進める。説明が適切か古くないかを確認し、より良くする。最新の第8版は全体で8万語余り載っているが、1万~2万の項目を見直した。新しく加わったのは3500くらい。人々の生活が変われば言葉も変わる。時代とともに変わる言葉を追っている。

 こうした特徴は見坊豪紀(ひでとし)(1914~92年)という優れた編さん者の影響が大きい。戦後最も使われた「明解国語辞典」をほぼ独力で作った人物だ。新聞や雑誌から用例を集めた「見坊カード」は145万枚あるとされるが、これは想像を絶する量。現在も日々用例採集をしているが、時には街なかで言葉を拾うこともある。新聞やテレビなどでは出てこない、今の言葉を感じることができる。

 私たちの辞書では、普段の会話の中に入ってくる方言を無視することはできない。2年前に刊行した第8版に用例を盛り込んだ「いちまる」もその一つだ。日本語の地図、言葉のジオラマをつくるのが私の仕事。「①」という記号はみんなが使っている。山形では「まるいち」ではなく「いちまる」と読む用例を載せることは、言葉の使われ方の多様性を示す上で必要だと思った。地方での使い方の違いを示すことは、まさに言葉の地図をつくることではないだろうか。

 第8版では他にも方言に関する記述は多い。「どまんなか」のように大阪の方言が全国区になったものや、「いちまる」のように地元の人が方言だと気付かないものもある。東北で「疲れた」を意味する「こわい」や「(ごみを)捨てる」ことを言う「なげる」のような多義語で、地域独特の意味も含む言葉は、他県の人にも知っておいてほしい情報なので載せている。

 さまざまな種類の言葉が同居しているのが日本語。そういうつもりで辞書を作っている。これからも改訂は続くが、方言も時代とともに変わる。新しい方言も観察しながら、日本語全体の中での方言の位置付けに今後も取り組んでいきたい。

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