「櫂伝馬競漕」は数ある魅力の1つ 人口7000人… 島の高校はこうして廃校のピンチからV字回復した

4年ぶりに復活した島の伝統行事「櫂伝馬競漕」―。優勝したチームに県外から島の学校に入学した高校生の姿がありました。

生徒
「ありがとうございます。最高でした」

応援に訪れた保護者
「おめでとう。すごいじゃん。いや、めっちゃ成長していて、もうびっくりです」

島の高校は生徒数の減少で一時、廃校のピンチに…。高校の復活には地域とのつながりがありました。

生徒
「ここにいた先輩たちがキラキラしていて…」

広島・竹原港からフェリーで30分。瀬戸内海に浮かぶ大崎上島は、人口7000人弱の島です。生徒数の減少で廃校のピンチを迎えた島の高校は、地域とのつながりで再建に乗り出しました。

県立大崎海星高校3年の 道林海斗 さん。先月まで和太鼓部の部長を務めていました。

大崎海星高校 3年 道林海斗 さん
「太鼓がやりたいっていう、ただそんな思いで大崎海星高校に入って、和太鼓部に入りました」

生徒会長も務める道林さんは、地元の大崎中学校出身です。

道林海斗 生徒会長
「高校に入ってみて、実際、いろんなことを体験してみて、やっぱり地域を大事にしてる高校だなっていうのは感じました」

県立大崎海星高校。そのルーツは、100年以上前の造船徒弟学校までさかのぼります。1998年に地元の2つの高校が合併し、大崎海星高校としてスタートしましたが、島の少子高齢化に伴い、生徒数は減少しました。

大崎海星高校 前田秀幸 校長
「存続の条件、それがもう最初に1番でしたね。全校生徒80名を2年連続で切らないように」

2014年の県教育委員会の方針で廃校などの対象となる80人を切った年度もありました。

道林海斗 生徒会長
「数年前に1回、廃校になってしまうっていうことを聞かされたときにこの島から高校がなくなったら、この島がちょっと盛り上がらなくなるんじゃないかなっていうのを、やっぱり地域の人から聞いたので」

島内には専門高校や中高一貫校はありますが、普通科の高校は大崎海星高校だけです。学校と大崎上島町や商工会などが連携し、存続に向け動き始めました。

現在の全校生徒は97人。V字回復した取り組みとは…

取り組み(1) 寮を整備

生徒
― きょうのごはんは?
「豚肉のステーキと煮物とスパゲッティー」

大崎上島町が4億円かけて整備した施設に生徒28人が入居しています。大崎海星高校では2015年度から「地域みらい留学制度」を活用するなど全国から生徒の募集も始めました。現在、県外からの在校生は36人です。

取り組み(2) 公営塾を併設

公営塾「神峰学舎」です。大崎上島町が公募した地域おこし協力隊の活動としてスタッフ4人が学校の施設を借りて運営しています。

「神峰学舎」地域おこし協力隊 高橋貴一 さん
「地域の、それこそ町長さんであったりとか、教育委員会の方であったり、先生方だったりとかが、学校の運営について考える会があって、そこに入ったのが衝撃でしたね。こんなに多様な人が関わっているんだっていうふうに思ったのは、すごく印象的に覚えています」

神峰学舎では、学科指導だけでなく、キャリア教育も指導しています。

高橋貴一 さん
「たとえば、島外の人とつながってもらって、こういう生き方とか、こういう仕事があるよっていうこととか、やりたいことを聞いて、生徒が一歩踏み出す。それを見つけるイメージです」

将来、幼稚園の先生になりたいという女子生徒はこんな提案をしたそうです。

大崎海星高校 2年(大崎上島町出身)
「 (幼稚園の先生を)本当にやりたいのかと思ったときに、そうだ、幼稚園に行ってみようみたいな感じで。近くの認定こども園におじゃまして、紙飛行機作ったりとかを友だちとプロジェクトをやりました」

取り組み(3) 大崎上島学

教師
「大崎上島学の定義っていうことで、地域で学んで、地域と学ぶ」

島を題材に課題を見つけ、解決していく力を身に着けていきます。

大崎海星高校 2年(東京出身)
「1年生で自分を見つめ直して、2年生でアクションを起こして、3年生で最後に自分1人でプロジェクトを進めていくっていう流れなんですけど、その段階を授業の中で踏めるのは、自分にとってすごくいい経験になるし」

大崎上島学などの一環で生徒たちが製作した「島の仕事図鑑」―。島内で働く人たちを取材し、紹介した取り組みは、文部科学省などの「キャリア教育連携表彰」で最優秀賞に輝きました。

櫂伝馬の船頭
「櫂伝馬で一番大切なのは、14人が櫂を合わせること」

県外出身の生徒も魅了されるのが「櫂伝馬競漕」です。200年以上続く大崎上島の伝統行事です。

4年ぶりの開催とあって、練習にも熱が入ります。

大崎海星高校 1年 茂木夏輝 さん(東京出身)
「島に来たからには、島が1つになってやるイベントをがんばりたいと思います」

大崎海星高校 3年 今村遥斗 さん(熊本出身)
「みんなで櫂を1つに合わせるという究極の団体スポーツ」

櫂伝馬「天満」チーム 藤原啓志 船頭
「大崎上島は櫂伝馬に限らず、抱えている問題、少子高齢化というのが、どのイベントをするにもあって、でも、こうやって天満地区には高校生たちがたくさん来てくれて助かっています」

そして、いよいよ本番の日。島のプライドをかけた闘いに高校生たちの期待もふくらみます。

大崎海星高校 道林海斗 生徒会長(大崎上島町出身)
「やっぱり4年ぶりの開催なので気合いが入っています」

大崎海星高校 3年 今村遥斗さん(熊本出身)
「この島に来ないと体験できないことだと思うので、みんなの和に入れて…」

大阪出身の 藤居大也 さんです。この春、大崎海星高校を卒業し、大阪の大学に通っています。このレースに参加するため、1週間前から島の民宿に泊まり込み、練習を積んできました。

大崎海星高校 卒業 藤居大也 さん(大阪出身)
「14人が今、1回の漕ぎに全部集約して、合っているあの感じがすごく、ぼくは好きで」

どのチームにも優勝の可能性が残った櫂伝馬の最終レース。

総合優勝は、赤の天満チームでした。

大崎海星高校 3年 今村遥斗 さん(熊本出身)
「ありがとうございます。最高でした」

「もう3年生で地元の熊本に帰ろうと思うので、大学で。夏になったら、こっちに帰ってくるからと」

大崎海星高校 卒業 藤居大也 さん(大阪出身)
「来年はたぶん、帰って来れますね。まだ大学2年生なので。就活とか、3年生ぐらいからだから。それまでは来て、余裕あったらちゃんと社会人になっても来たいんですけどね」

高校を卒業して島を離れても、また戻って来たいと話します。

櫂伝馬競漕―。島の伝統は、大崎上島の魅力の1つ。地域とつながる大崎海星高校を支えています。

熊本出身 今村遥斗さんの両親
「海星高校は塾もあり、生徒の人数も少なくて、1人ひとり、ちゃんと目の届く教育されているかなと思って安心しています」

大崎海星高校 2年(岡山出身)
「ここにいた先輩たちがなんかキラキラしていて、やりたいことをやって、最高の高校生活を送っているっていう感じが “だだもれ” で。学校説明会とか」

大崎海星高校 道林海斗 生徒会長(大崎上島町出身)
「ぼくの中のかっこよさは、いかに地域を愛せて、地域のものをどれだけ残していくかっていうところで、伝統文化に必死になってやれる高校生っていうのが、めっちゃかっこいいなとぼくは思っています」

◇ ◇ ◇

青山高治 キャスター
寮にしても公営塾にしても大崎上島学にしても本当に生徒たちと地域を結ぶもので、生徒たちは大崎上島で学ぶことはどういうことかと真剣に考えていますし、それを櫂伝馬が大きな魅力となってつないでいる感じがします。

コメンテーター 木下ゆーき さん(子育てインフルエンサー)
インタビューを受けていた高校生たちがみんな、地域のこと、島のこと、学校のことをすごくしっかり軸を持って話しているのを見て、生徒に実になるものとして伝わっているんだなと感じました。

小林康秀 キャスター
学びというのが、教室や机の上だけじゃないと。本当に外に飛び出して、島の文化であるとか、自然とかいろんなものを生かした環境で行われているからこそ、島外・県外からいらっしゃっているんだなと思いました。

河村綾菜キャスター
生徒たちのインタビューからも “島愛” がすごく伝わってきました。ことし、地元の大崎中学を卒業した3年生は32人いるんですが、このうち半分以上の18人が大崎海星高校に進学しています。また、県外から来た生徒もいっしょに島の行事「櫂伝馬競漕」に参加している姿こそ、学校と地域のつながりを表していると思いますので、これからも島の魅力を発信していただきたいと思います。

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