iDeCoで損、ふるさと納税の上限額、妊活や出産の医療費控除…節税のよくある勘違い

「手元にお金をしっかり残すなら、日々のチマチマとした節約よりも節税が効果的!」と考えて税金のことを調べて節税したつもりが、理解が不十分で節税に失敗している方がいます。

なんて……嘆かわしい!

税金のルールは複雑で奥が深いので、基本がしっかりとわかっていないと、誤った解釈で節税に失敗してしまうケースがあるのです。よくやりがちな失敗例を集めてみましたので、お笑い芸人で本物の税理士である税理士りーなと一緒に、ぜひご自身の節税もチェックしてみてください。


扶養や控除対象者のiDeCo

お金の知識を学ぶ際、よく「稼ぐ・貯める・守る・増やす」が必要と耳にするようになり、投資にも積極的な方が増えてきているように感じます。NISAで投資を始めて、iDeCoを始めることで、さらに資産形成ができるようになってきた、と実感されている方も少しずつ増えているようです。

しかし、運用益にかかる税額が0円になり万人にとって節税効果があるNISAに対して、iDeCoは節税効果がある対象者が限られています。

「税金の納付額がある方は税額が安くなってお得」ですが、パートやアルバイトの年収が103万円以下であるなど、納付税額がない方は「所得控除」と呼ばれる節税効果がなく、逆に毎月の掛金をかける時に手数料を取られて損してしまいます。

ここで、iDeCoの基本について確認しましょう。

(1)掛金を拠出したときにかけた金額分が「所得控除」となり税額が安くなる
(2)投資信託で運用して出た運用益にかかる税金が0円になる
(3)60歳以降で受け取る時に退職所得または年金所得として計算するので税額が0円また は安くなる

3つもの節税効果があって、なんて……喜ばしい! 中でも(1)の効果は即効性があって、お得感が強いですね。実際の節税金額は、掛けた金額×税率(15〜55%)分です。

毎月2万円ずつ掛金をしている方なら年間24万円を掛けるので、給与で年収280万円までの方でも所得税5%と住民税10%を合わせて15%、毎年3万6,000円の節税効果があります。給与収入が高くなるほど所得税の税率が上がっていくので、年収460万円までの方なら所得税10%と住民税10%で合計20%、毎年4万8,000円の節税効果です。

しかし、iDeCoは掛金を拠出する際に、掛金に対して約3%の手数料がかかります。15%や20%の節税効果があるので、手数料の3%分を差し引いても12%や17%が税金でお得になるので掛ける価値があるのですが、税金を全く払っていない方は手数料の払い損になる可能性があるのです。

扶養控除や配偶者控除を受けるような収入が少ない方に関しては、そもそも納税する金額が0円という可能性も高いので、節税の必要性がないのです。自分の税額が下がったからと言って、収入の少ない家族にまでiDeCoを勧めては、なんて……嘆かわしい!

税金を払っていないご家族には、iDeCoよりもまずNISAを活用して資産形成をしていただくのがいいですね。

住宅ローン控除とふるさと納税

「今後、住宅ローン控除が少なくなるかも!?」なんてニュースを目にして、駆け込みで控除を受けようとされる方もいらっしゃるようですね。

住宅ローン控除とは、マイホームを買う時に借り入れをすると、その借り入れの残高に応じて税額の控除が受けられる制度で、他の節税対策よりも効果が大きいと言われています。一定の条件を満たせば借入金の残高に対して0.7%の税額を、10〜13年間の控除してもらうことができます。

ここで大事なのは、「所得控除」ではなく「税額控除」が受けられるという点です。

よく聞く「配偶者控除」「扶養控除」「医療費控除」「生命保険料控除」などは、「所得控除」といって、税率をかける前の儲けの金額から差し引いてくれる控除です。控除で引いてもらってから、税率を掛け算するのです。

ところが、住宅ローン控除は「税額控除」なので、税率をかけた後の税額からまるまる引いてくれます。まず所得税から引いて、引ききれない分を住民税から引いてくれるので、うまくいけば両方の税金が0円になる人もいるほどです。「節税効果が大きくて、なんて……喜ばしい!」という制度ですが、税金が安くなりすぎて、他の節税対策が効かなくなることがあるのです。

特に注意して欲しいのは、ふるさと納税をされる方です。

ふるさと納税は住民税が安くなる制度です。まず、上限額の範囲内で好きな自治体に寄附をして返礼品をゲットし、あとから寄附額 ― 2,000円分の住民税を安くしてくれるという制度ですが、寄附できる上限額に注意が必要です。

前の年の給与の状況で上限額を計算して寄付をすることになるのですが、住宅ローン控除などの税額に影響が大きい控除を受ける場合は、せっかく寄附をしても上限額を超えて引いてもらえなかったり、納税額が低すぎて引ききれなかったりということが出てきます。

最近は、住宅ローン控除などの控除を考慮して上限額を試算できるふるさと納税サイトも出てきていますので、しっかりと活用して本当にお得なのはいくらまでなのかを事前に確認しましょう。

副業の経費

政府が推進する働き方改革の影響もあり、「職場が副業OKになりました」という方も増えてきていますね。そして、副業で収入を得はじめると、それに対応する経費も支払っているので、収入から経費の支払い分を引き算して儲けを算出してから税金の計算をすることになります。

副業が順調という方が「始めたばかりの副業が思ったより順調で利益(もうけ)が出そうなので、何か買ってマイナスにしないとダメですよね?」とおっしゃってましたが、どう思いますか?

事業としての収入を獲得するために本当に有効な支出なら、経費として認められますし、いずれ買おうと思っていたものであれば、節税対策として思い切って支払っておくのもいいでしょう。でも、要るか要らないかもわからない、「とにかく経費を使わなければ!」という強迫観念からいい加減に支出することは感心できませんね。なぜなら、節税のために経費を使ったとしても、不要なものを買って手元のお金が俄然減ってしまっているからです。

給与で年収460万円までの方は所得税10%と住民税10%で、その上さらに儲けたとしても20%ちょっとの税金を払うだけですが、要らない買い物をすると100%その金額を失って、20%の税金を負けてもらえるだけです。事業や副業をされている方は、ムチャな経費を使って節税を考えるよりも、まずは使える所得控除がないか、そしてiDeCoやふるさと納税など、節税対策として国が推奨している方法を活用すること考えてみてください。

妊活や出産での医療費控除

医療費控除という制度をよく聞くけれども、制度を正しく把握されている方は意外と少ないようです。ここで簡単におさらいしておきます。

1年を通して医療費をたくさん払ったという場合は、10万円を超えた部分が「所得控除」として引いてもらえるという制度です。ここでいう医療費は、家族全員分を合計できます。共働きでも合計してOKです。

家で親の介護をしているという場合なども、親の医療費を面倒見ているというのであれば、それも足し込んで構いません。また、薬局やドラッグストアで買った「医薬品」も対象になりますので、レシートを捨てないで置いておきましょう。

共働きの場合は、誰で医療費控除を受けるのがお得か、という判断が重要です。より所得が高い人で控除を受けると、税率が高く節税効果が大きいということになります。

例えば、給与の年収が460万円の人と490万円の人を基礎控除と社会保険料控除のみと仮定して比べると、適用される所得税率が460万円の人は10%、490万円の人は20%です。住民税の10%を合わせると、20%と30%の税率で控除が受けられるラインにいることになります。家族全員分を合計して、医療費を年間25万円払った場合、10万円を超えた部分は15万円なので、受けられる所得控除が15万円、節税効果は15万円×税率分となります。

つまり、年収460万円の人は15万円 × 20% = 3万円、年収490万円の人は15万円 ×30% = 4万5,000円の節税効果となるので、490万円の人で控除を受けた方が1万5,000円分の税額が安くなるということです。

「妻が不妊治療を受けたり、出産費用を支出したりするので、妻の方で医療費控除を受けなければならないですか?」と質問されることがありますが、産休育休の影響で年収が下がっている妻の税額計算に医療費控除を使ってしまうのは、さらに税率が下がっている可能性もあるので、節税効果は小さくなることが予想されます。少ししか税金が還付されないのに、大量の領収証の束を一生懸命集計して労力を割くのは、なんて……嘆かわしい!

その年の年収が高く、税額が高くなりそうな人で控除を受けるようにしてくださいね。


「今の私には関係ない」と思うことでも、ライフスタイルが変わったり、年収が変化したりすると、必要になる知識もあります。節税のアンテナをしっかり立てて正しく節税することで、効果が最大限に発揮できて、その分お金も貯まります。なんて……喜ばしい!

正しいルールを理解して、誰でどんな控除を受けるのがベストなのか、これを機に再確認しましょう。

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