2023年度の「賃上げ」実施、過去最大の84.8% 「賃上げ率」5%超、中小企業が37.0%で大企業を上回る

~2023年度「賃上げに関するアンケート」調査~

2023年度の賃上げは、企業の84.8%が実施(予定含む)した。これは官製春闘で賃上げ実施率が8割を超えていたコロナ禍前の水準を超え、2016年度以降の8年間では最大となった。コロナ禍で実質賃金が目減りするなか、物価上昇に見舞われて高まった賃上げ機運が賃上げ実施率を押し上げたようだ。
賃上げを実施した企業を規模別でみると、大企業89.9%に対し、中小企業は84.2%で、5.7ポイントの差がついた。だが、前年の6.6ポイント差から縮小し、中小企業でも賃上げが進んだことがわかった。

賃上げの実施内容は、継続的な物価上昇を背景に「ベースアップ」が56.4%で、2016年度以降で初めて5割を超えた。
また、「新卒者の初任給の増額」は、大企業が38.7%(前年度24.3%)、中小企業が21.4%(同17.0%)で、規模を問わず初任給アップが必要と判断した企業が増えたことを示しているが、大企業が中小企業を17.3ポイント上回り、事業規模による格差は広がった。
大企業と比べ経営体力に乏しい中小企業は、賃上げの原資そのものの確保が難しく、人材採用と人件費上昇の板挟みになっている企業も少なくない。
2023年春闘について、連合は賃上げ率5%程度(定昇含む)の方針を示していた。5%以上賃上げを達成した企業は36.3%だったが、中小企業が大企業を8.3ポイント上回った。
コロナ禍初めの2020年度の賃上げ実施率は、過去最低の5割台まで落ち込んだ。経済活動の再開と物価高、人手不足が重なった2023年度は、8割を超える水準に回復した。しかし、売上増と利益拡大を実現できないままの賃上げは、堅実経営とはかけ離れた行動で収益圧迫の諸刃の剣になりかねない。正常な価格転嫁による収益改善と賃上げ原資確保の実現が重要になっている。

※本調査は、2023年8月1日~9日にインターネットによるアンケートを実施、有効回答5,460社を集計、分析した。
※賃上げ実体を把握するため「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)の増額」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
※資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。


Q1.今年度、賃上げを実施しましたか?(択一回答)

「実施率」は84.8%、最高を更新
「実施した」は84.8%(5,460社中、4,634社)で、前年度の82.5%を2.3ポイント上回った。定期的な集計を開始した2016年度以降の最高を更新した。物価高を背景に、企業も賃上げに取り組んだ。
規模別の「実施率」は、大企業が89.9%(628社中、565社)に対し、中小企業は84.2%(4,832社中、4,069社)で、規模による差は5.7ポイントだった。前年度は大企業88.1%、中小企業81.5%で、6.6ポイント差だったが、2023年度は縮小した。

産業別 賃上げ実施率、製造業が最大の88.4%

Q1の結果を産業別で集計した。「実施した」割合が最も高かったのは、製造業の88.4%(1,628社中、1,440社)だった。以下、建設業88.0%(730社中、643社)、卸売業86.9%(1,184社中、1,029社)と続く。それぞれ、前年度は87.2%、83.7%、84.5%で、いずれも賃上げ実施率が上昇した。
最低は、不動産業の64.4%(107社中、69社)で、唯一の6割台だった。前年は67.5%。
規模別では、大企業の最高は農・林・漁・鉱業の100.0%(3社中、3社)。次いで、運輸業97.1%(35社中、34社)、小売業95.0%(20社中、19社)の順。大企業では、10産業中、情報通信業(75.7%)と金融・保険業(78.5%)、サービス業他(88.2%)の3産業を除く7産業で賃上げ実施率が9割を超えた。
一方、中小企業の最高は製造業の88.1%(1,432社中、1,263社)だった。以下、建設業87.6%(664社中、582社)、卸売業86.3%(1,041社中、899社)の順。中小企業で賃上げ実施率が9割を超えた産業はなかった。
金融・保険業を除く9産業で、大企業の賃上げ実施率が中小企業を上回った。

Q2. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。実施した内容は何ですか。(複数回答)

「ベースアップ」実施企業が5割超
Q1で「実施した」と回答した企業に賃上げ項目を聞いた。4,594社から回答を得た。
最多は、「定期昇給」の75.3%(3,462社)。次いで、「ベースアップ」の56.4%(2,592社)、「賞与(一時金)の増額」の43.3%(1,992社)、「新卒者の初任給の増額」23.5%(1,082社)の順。
「定期昇給」は前年度の81.0%を5.7ポイント下回ったが、一方で「ベースアップ」(前年度42.0%)は14.4ポイントと大幅に上回った。
規模別は、「新卒者の初任給の増額」は大企業38.7%(557社中、216社)に対し、中小企業は21.4%(4,037社中、866社)で、17.3ポイントの差がついた。初任給の差が拡大すると、中小企業の今後の新卒採用への深刻な影響が懸念される。
人材獲得が激化するなか、中小企業も安定して賃上げを実施できる環境整備が重要になっている。

Q3.賃上げ率(%)はどの程度ですか?年収換算ベース(100までの数値)でご回答ください。

最多レンジは「3%以上4%未満」
Q1で「実施した」と回答した企業に賃上げ率を聞いた。2,942社から回答を得た。
レンジ別の最多は「3%以上4%未満」の27.7%(815社)だった。次いで、「5%以上6%未満」の20.2%(597社)、「2%以上3%未満」の16.1%(475社)の順。
連合の2023年春闘では、定昇相当分を含む5%程度の賃上げ方針が示されたが、賃上げ実施企業のうち、「5%以上」の賃上げ率を達成したのは36.3%だった。
規模別では、賃上げ率「5%以上」は大企業が28.7%(271社中、78社)に対し、中小企業は37.0%(2,671社中、990社)で、中小企業が8.3ポイント上回った。
産業別では、賃上げ率「5%以上」の割合が最大だったのは、金融・保険業の66.6%(12社中、8社)。最低は運輸業の29.4%(119社中、35社)だった。

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