「軽率に、話してみたい。」インパクト大の小さなカード 受け止め方は自由…ヤングケアラー支援で上尾市

埼玉県上尾市が作成した「ヤングケアラー啓発カード」。表面には「軽率に、話してみたい。」とあり、裏面は相談窓口の情報が書かれている

 埼玉県上尾市は、ヤングケアラー支援のための啓発カードを作成した。「軽率に、話してみたい。」と書かれた小さなカードには、「えっ、これどういう意味?」と思わずリアクションをとってしまうインパクトがある。

 対象となる小学高学年から高校生らに、素通りさせない言葉を探してたどり着いたのが「軽率」の2文字。市の担当者は「使い方間違ってない?なんで軽率?と、カードを見た人がもの申したくなるのが狙い。少しでも引っかかってもらえたらという思いでこの言葉を使った」と話す。

 市は今年4月、大人に代わって家族の世話や家事などを行うヤングケアラー、若者ケアラーへの支援体制を強化するため、臨床心理士かつ公認心理師の資格を持つ専任のコーディネーターを採用した。市子ども家庭総合センターに常駐し、小中学校や関係機関と連携して相談業務をスタート。18歳以上の若者ケアラーも含むサポートは県内で初の取り組みとなっている。

 今回の啓発カードは、こうした取り組みの一環で作成された。ヤングケアラーについてよく知らない、自分がヤングケアラーという自覚がないといった子どもたちにストレートに呼びかける「軽率に、話してみたい。」の文字。主語は子ども側にも支援側にも置くことができるため、どちらの受け止め方も自由で対等。子どもたちの主体性を尊重しているという。

 一般的に「軽率」には否定的な言葉が続くことが多い。辞書にも「深く考えないで判断したり行動したりすること。軽はずみ」(広辞苑)とある。しかし、現代の若者文化では「軽率」の使われ方が変わってきている。「軽率に推す」「軽率に参加したい」「軽率に買った」などの表現がX(旧ツイッター)などであふれている。市のコーディネーターはここに注目した。「ヤングケアラーはデリケートな問題。『話を聞くよ』や『いつでも相談して』という言葉は、もしかしたら子どもたちを傷つけてしまうかもしれない。私たちが話したいんだよと伝えたかった。カードを見た人が誰も傷つかないことが一番大切」とコーディネーターは話す。

 カードは、9月中旬をめどに市内の中学校などに配布される予定。直接市や学校に相談することに戸惑いを感じる子どもたちには、2次元コードを読み取ってもらい、市のホームページにアクセスしてもらうこともできる。同センターの小林仁子所長は「カードをきっかけに、ヤングケアラーについて知ってもらいたい。時間はかかるかもしれないが、じわじわと広がってもらえれば」と話している。

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