人気の陰で学芸員不足 金沢21美、退職11人

学芸員不足が問題となっている金沢21世紀美術館=金沢市広坂1丁目

  ●21年度から

  ●展覧会に影響懸念

  ●必要数21人、補充進まず16人

 石川県内屈指の知名度と集客力を誇る金沢21世紀美術館が学芸員不足に直面している。コロナ禍の2021年以降、「新たな職場で経験を積みたい」と退職するスタッフが相次ぎ、現在の学芸員・専門員は16人と業務上必要な21人に対して5人足りていない。募集をかけても応募が少なく、補充が追いつかない状況で、「このままでは展覧会の企画に影響が及びかねない」と懸念する声も出ている。

 金沢21世紀美術館を運営する金沢芸術創造財団によると、学芸員、専門員の退職は2018年度に2人、19年度にゼロ、20年度1人で推移していたが、21年度は5人に急増。22年度も4人が辞め、今年度も8月1日時点で2人が他へ移った。

 退職の理由としては、他美術館への転出のほか、県外出身の学芸員が親元で働きたいと希望するケースが多い。大学職員など研究職での勤務や起業を希望する学芸員もいるという。

 財団は昨年4月、学芸員と専門員4人について募集をかけたものの、採用できたのは1人にとどまり、昨年9月に再募集して必要な人員を確保した。同11月には学芸課長1人を募ったが、適任者がおらず、今年5月の再募集でも採用に至らなかった。9月にも再々募集を予定している。

 このほか、今年5月には学芸員ら3人、同7月には学芸員1人について求人を出した。

  ●運営方法に疑問の声

 退職の増加について財団は「学芸員それぞれのライフプランがあり、職務の性質上やむを得ない部分がある」(担当者)と説明。欠員が生じた際は随時募集して採用・補充する方針を示すが、退職者の穴埋めに苦戦しているのが実情で、21年4月に就任した長谷川祐子館長の運営方法や指導力を疑問視する声も一部で聞かれる。

  ●学芸課長不在が痛手

 美術館にとって、特に痛手となっているのは専任の学芸課長の不在だ。このポストは現代美術の展覧会企画や美術作品の収集、調査研究などで豊富な経験を持つ人材が務め、若手学芸員育成の役割も担うが、現在は学芸部長が兼務している。

 同財団によると、全国的に40代後半から50代前半で業務経験を積んだ中堅層の学芸員の人数が少ないとされ、学芸課長の適任者がなかなか見つからないという。財団は「学芸課長不在は今後の美術館運営に重大な支障を来す」とし、早期採用を目指す考えを示した。

 

 ★金沢21世紀美術館 2004年10月開館。設計は妹島和世さんと西沢立衛(りゅうえ)さんのユニット「SANAA」。2022年6月に累計入館者数が3千万人を突破した。昨年度の入館者は前年度比約1.7倍の176万3982人。ピーク時の18年度(258万591人)と比べると約7割の水準にとどまったが、新型コロナ感染拡大後で初めて150万人を超えた。

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