高齢者の日常、大学生が支える 孤独解消し「孫世代の友達」に

高齢者の日常を支えるサービスで起業した山本さん

 独り暮らしのお年寄りと一緒に遠出して買い物し、スマートフォンの操作を教わって動画視聴を楽しむ―。山本智一さん(25)=京都市左京区=は、高齢者の日常生活でのささやかな希望を大学生がかなえるサービス「まごとも」を昨年から始めた。意味は「孫世代の友達」。介護保険が適用されない部分を担い、「孫と一緒にいるような楽しい時間を過ごしてほしい」との願いを込めて名付けた。

 大阪市東淀川区生まれ。中学や高校ではやんちゃで落ちこぼれの生徒だったが、高校2年の時、ふと将来に不安を感じた。「自分も友達も先のことを何も考えていない」。そんな時、学年最下位の成績の高校生が難関大に合格する映画「ビリギャル」に出合った。

 映画に触発されて一念発起した。「人生を変えるには勉強しかない」。小学4年の国語から必死でやり直し、指導してくれた大学生に憧れて立命館大薬学部に現役で合格した。

 入学後、増え続ける医療費のことを知り、高齢化が進む社会で自分に何ができるかを考えるようになった。薬学部卒業後は、起業を視野に京大大学院に入り、経営管理とバイオインフォマティクス(生命情報科学)を学んでいる。同時に、高齢者が求めていることを知りたいと、京都市内の特別養護老人ホームで半年間アルバイトをした。

 食事や排せつの介助をする中で、若い世代と接する時に生き生きしている高齢者の姿に気付いた。ホームにいる多くの人が、これまでの人生経験や思い出を話したがっていた。「さみしいし、一緒にご飯を食べよう」と声をかけてくる人もいた。

 お年寄りとの交流を重ねるうちに、自分がやりたい事業のイメージが見えてきた。「高齢者が抱える孤独を解消するために若い自分たちが役に立つことができる。若者はお年寄りの知恵を継承することもできるはず」

 修士課程1年の22年2月、株式会社「whicker(ウィッカー)」を設立。利用料は1時間2750円で、うち1200円を学生に支払う仕組みで事業を始めた。市内の高齢者施設200カ所を飛び込みで訪問したところ最初の反応は薄かったが、しばらくすると「草むしりして」「外出に同行して」など、介護保険で対応できない高齢者からの要望に困った施設から利用者を紹介されるようになった。それを糸口に、まごともの良さを知ってもらうことに努めた。

 スマートフォンの購入やマイナンバーカードの取得を手伝ったこともある。利用者からは「若い人と接する機会はなかったので楽しい」と喜ぶ声も寄せられるようになった。

 まごともに参加する学生探しも課題だった。介護職に対して重労働で低賃金とのイメージを抱く若者もいるが、「お年寄りと友達感覚で接してほしい。お年寄りの生きる喜びにつなげたい」と呼びかけた。今、参加者は京都市内を中心に大阪や東京などに広がり、登録する学生は約50人にまで増えた。

 現在は、地域の高齢者が集えるコミュニティースペースを開こうと、左京区下鴨の民家を借りて準備している。畳部屋でお年寄りと大学生がくつろぎ、交流できればと構想を練っている。また元気な高齢者へのインタビュー、流行語や介護予防についてSNSで動画などを発信し、認知度を高めようとしている。

 現時点の利用者は数十人規模だが、2年後には都市部を中心に5千人に広げたいと意気込む。「若者とお年寄りが、それぞれ違う多様な考え方に触れることができる仕組みだと思う。世代間の壁を壊し、新たな価値観を生み出したい」と夢を描く。

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