マドリッドは月曜の夜も熱い…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Atlético de Madrid]

「確かにこの暑さで体を動かすのはキツいけど」そんな風に私が溜息をついていたのは月曜日、猛暑もここに極まれり、とうとう気温が40℃になっているのに気がついた時のことでした。いやあ、先週末通ったバル(スペインの喫茶店兼バー)もエアコンがほとんど効いておらず、それでもこれ以上、バケーション中でないお店を探して放浪の旅を続けるのが嫌で、汗だくの中、マドリッドの2強の試合を見ていたんですけどね。それだけに土曜にアルメリア(スペイン南部地中海沿岸)で午後7時30分と一番暑い時間にプレーしたお隣さんが変わらない高いパフォーマンスを見せた反面、日曜にセビージャ(スペイン南部内陸部)で午後9時30分からプレーしたアトレティコが完全な夏バテ状態だったのは納得できなかったんですが、もしや選手たちの基礎体力が違ったりする?

とりあえず、順番にお話ししていくことにすると、マドリッド勢のリーガ2節のトップを飾ったマドリーは、筋肉痛で金曜の練習を休んだカマビンガの代わりにクロースを入れた以外、開幕節アスレティック戦と同じスタメンでアルメリア戦をスタート。それが開始2分、いきなり古巣恩返し弾を喰らってしまったから、ビックリしたの何のって。そう、昨季はRMカスティージャで司令塔を務めていたアリバスがロベルトネのクロスをもらい、クロースが追いつけないのをいいことにゴール前からヘッドを叩きつけて、先制点を挙げたんですが、これはあまりに時間が早すぎましたかね。

そう、後でベリンガム(ドルトムントから移籍)も「このチームには落ち着きがあって、1度も負けるとは思わなかった。チームメートの顔を見てもまったくパニック感がないんだ」と言っていたように、remontada(レモンターダ/逆転劇)体質が染み込んでいるアンチェロッティ監督のチームは粛々と反撃を開始。19分にはカルバハルが上げたクロスをバルベルデが頭で撃ったところ、ボールはゴール前にいたベリンガムに当たり、更にチュミにも当たって、再びベリンガムの下へ。そこですかさず体を回してシュートを決めている辺り、その素早い反射神経には感心するしかありませんが、これでひとまずスコアはイーブンに戻ります。

お水休憩の後はGKルニンもババやロベルトネ、ラマザーニらのシュートをセーブ。「Tenemos confianza, como con Kepa. Jugará antes o después/テネモス・コンフィアンサ、コモ・コン・ケパ。フガラ・アンテス・オ・デスプエス(信頼感はケパ同様にある。遅かれ早かれプレーするだろう)」という、アンチェロッティ監督の正GKをヒザの靭帯断裂で長期リハビリとなるクルトワの代理として、チェルシーから緊急レンタル移籍で来たケパにするか、ルニン続投で行くかの選択をこの金曜の3節セルタ戦を見据えて、できるだけ遅らせる努力をしていましたが、残念だったのはロスタイムに決まったクロースの弾丸シュートが認められなかったこと。VAR(ビデオ審判)注進が入り、アシストをしたカルバハルがアキエメからボールを取り返す際、相手の足を踏むファールを犯していたのがバレてしまったせいで、試合は1-1のまま、ハーフタイムに入ることに。

でも大丈夫。今季は若手の台頭でかなり出番が減りそうなベテランはその程度では凹まず、後半15分にはエリア外からドンピシャのクロス。ベリンガムがこれをヘッドで勝ち越し点に変えてくれたからで、いやあ、それにしたって、この移籍金1億ユーロ(約160億円)越えの大型新人20才はMFだと思っていたんですけどね。アンチェロッティ監督も「Falso nueve(ファルソ・ヌエベ/シャドーCF)を上手くやれる」と言っていたんですが、蓋を開けてみれば、開幕2試合で3得点って、その実態はストライカーだった?

いえ、一応、28分にはFW陣も意地を見せ、ビニシウスのvaselina(バセリーナ/ループシュート)が敵DFに当たってゴールに入り、マドリーは3点目を挙げているんですけどね(最終結果1-3)。アスレティック戦に続いて、この日も途中出場したホセル(エスパニョールからレンタル)はまだゴールを入れていませんし、このまま進んだら、今季のチーム内ピチチ(得点王)が、自身も「とても高いレベルを持つチームメートたちから学んで、自分は昨季の10倍、いい選手になっている」と認めてい、ベリンガムになるなんてこともあるかもしれません。

そして翌日曜はヘタフェとアトレティコの番だったんですが、先にジローナ戦をプレーした弟分は、うーん、開幕節ではバルサと0-0で引分けて、油断してしまいましたかね。時間も午後7時とまだお日様が残っていて気の毒だったんですが、コリセウム・アルフォンソ・ペレスで披露した堅守が前半12分には決壊。サビオが上げたクロスをゴール前でヤンヘル・エレーラにヘッドで押し込まれ、最初はサビオのオフサイドでノーゴールだったのもVARでセーフとなり、ジローナに先制点を奪われてしまいます。おまけに後半にも11分にはミゲールが送ったボールをフリーのストゥアーニにジャンピングボレーされ、20分にはサビオのシュートをGKダビド・ソリアが弾いたボールを再びストゥアーニにゴールに送り込まれて、とうとう3点差になってしまうとは!

これには、どうやら前半だけでヘタフェに3枚もイエローカードが出され、最後は5枚に。ボルダラス監督も「Si nos sacan tarjeta por todo no se nos juzga de la misma manera/シー・ノス・サカン・タルヘタ・ポル・トードー・ノー・セ・ノス・フズガ・デ・ラ・ミスマ・マネラ(ファール全部にカードを出すなら、ウチは同じ尺度でジャッジされていない)」と文句を言っていたんですが、得意のハードプレーを禁じ手にされたのも影響したんでしょうけどね。バルサ戦での退場で出場停止だったマタの代わりに入ったボルハ・マジョラルも不発のまま、打撲で後半早い時間にロサーノに交代となり、結局、最後まで1点も取れなかったヘタフェは3-0で敗戦。今季初ゴールすら、挙げることができませんでしたっけ。

まあ、彼らにはホームに戻れる来週月曜のアラベス戦で左サイドの守備の穴の修復も含めて、改善を期待するばかりですが、開幕のグラナダ戦で3点を挙げ、首位でスタートしたアトレティコの急変ぶりはどう評価したらいいものやら。実はその日は直前まで、バルサvsカディス戦をバルのTVが流していたため、午後9時半になっても38℃というベニト・ビヤマリンでのベティス戦は開始5分ぐらいまで、チャンネルを変えてもらえなかったんですが、正直言って、イスコ(昨季後半は無所属でベティスに入団)のchilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)が外れたぐらいで、30分のお水休憩が来るまで、アトレティコは何もせず。

ボールはほぼベティスに握られっぱなしで、たまに取り戻しても動きの鈍い選手たちは前方に向けて走ることすらせず、悠長にパスを回すばかりで、しかもマルコス・ジョレンテ、レマル、カラスコらは、あの忘れた頃に顔を出すアトレティコ伝統の悪癖、パスが3度と続かない状態に陥っていたから恐ろしい。おかげで私も呆れ果てて見ていたんですが、もしや負傷のコケの代わりにプランD、ボランチにデ・パウルを起用したのも失敗だった?

さすがにこれにはシメオネ監督も参ったか、奇跡的に0-0で始まった後半頭からはジョレンテに代えて、先週は筋肉痛もあったため、温存されていたプランBのバリオスを投入したんですが、碌々シュートもないまま、20分にはカラスコ、レマスがサムエル・リノ(昨季はバレンシアにレンタル)、サウールに、そしてモラタに代わって先発していたメンフィス・デパイもモラタと交代。それで少しはマシになったとはいえ、チャンスはグリーズマンのCKをエルモーソがヘッドして、GKルイ・シルバにparadon(パラドン/スーパーセーブ)されてしまった時ぐらいだったんですけどね。

この日はコレアが捻挫で休場していたため、最後に入ったリケルメ(昨季はジローナにレンタル)も「El Betis fue mejor en el primer tiempo y en el segundo bajó el ritmo y nosotros lo subimos/エル・ベティス・フエ・メホール・エン・エル・プリメール・ティエンポー・イ・エン・エル・セグンド・バホ・エル・リトモ・イ・ノソトロス・ロ・スビモス(前半はベティスの方が良かったが、後半になって相手はリズムを落とし、ウチはギアを上げた)」というシメオネ監督の計画遂行に貢献しようと頑張ったんですが…最後はロスタイムにモラタがルイ・シルバにシュートを防がれた上、お決まりのオフサイドだったというオチで、試合は0-0で終了。

途中から目的を変更し、「勝ち点を獲得するのはnunca va a ser malo ante un equipo como el Atlético de Madrid/ヌンカ・バ・ア・セル・マロ・アンテ・ウン・エキポ・コモ・エル・アトレティコ・デ・マドリッド(アトレティコのようなチームを前にしたら、決して悪いことではない)」というペレグリーニ監督には良かったかもしれませんが、これじゃ、まったく肩透かしもいいところですって。

もうこうなると、来週月曜の次節、ラージョとの兄弟分ダービーの前には絶対、プランAのボランチ補強が必要になってきそうですが、何せ、このベティス戦もどこかを痛めてお休みしたジョアン・フェリックスの移籍話がまとまる気配は全然、ありませんからね。そうこうするうち、アトレティコは月曜に開幕戦のメトロポリターノでグラナダの1点を決めた大型カンテラーノ(Bチームの選手)、サムの契約破棄金700万ユーロ(約12億円)を払い、FWの数を増やしたんですが、こちらはリノやモウリーニョ(ラシンクラブ・デ・モンテビデオからこの夏移籍してサラゴサにレンタル)のように、今季は1部の他のクラブで修行してもらうよう。

ただ、サムは19才と若いため、ラージョに再度レンタルされたカメージョや、ベティスがヘタフェから掻っ攫っていったアルティミラ(サダベルと契約終了)のように、Bチームで登録をして、トップチームで随時、活用していくという手もあるんですが、獲得したいボランチはホイビュルク(トッテナム)やベラッティ(PSG)といったベテランですからね。その場合、どうしてもジョアンの背番号と給与枠が空くことが必要なため、すぐには解決しないと思いますが、そうそう、月曜にグラナダと気温29℃のロス・カルメネスで対戦したラージョは元気に走り回り、0-2と快勝。

いえ、サムをアトレティコに獲られてしまったグラナダも何度かGKデミトリエフスキの手を煩わせており、後半30分にアルバロ・ガルシアがウナイ・ロペスとの連携で先制点を決める直前にはブライアンのポスト直撃シュートなどもあったんですけどね。34分にはピッチに入ったばかりのパテ・シスがRdT(ラウール・デ・トマス)からボールをもらい、2点目を挙げたラージョは、40分にはグラナダのプエルタスがレッドカードで退場したのもあって、10分間のロングロスタイムもつつがなく乗り切り、開幕2連勝を達成することに。おかげでマドリーに次ぐ2位になったとなれば、5位に落ちてしまったアトレティコも改修工事で止まっているメトロ1号線の代替手段を探しているファン同様、かなり気合を入れて、エスタディオ・バジェカスに行かないといけませよね。

え、それで日曜にはスペイン代表の女子W杯決勝イングランド戦もあったんだろうって?その通りで私も家のTVで見ることができたんですが、試合の方は前半29分、準決勝スウェーデン戦でも延長戦突入を逃れる決勝ゴールを挙げていたオルガ・カルモナ(マドリー)がエリア内から弾丸シュートを決めて先制。後半23分にもウォルシュ(バルサ)のハンドでPKをもらったんですが、ジェニ・エルモーソ(パチューカ)がGKアープ(マンチェスター・ユナイテッド)に止められて、追加点は取れなかったものの、そのまま1-0をキープして初優勝を遂げたんですよ。

これにはスペイン各地で行われていたパブリックビューイングに参加したファンたちも大歓喜で、いえ、2010年の男子スペインのW杯優勝の時のように街中に車のクラクションや花火の音が鳴り響いた訳ではありませんけどね。現地でのお祝いの様子やトロフィー授与などはRTVE(スペイン国営放送)がずっと中継を続けてくれたため、私も追っていたんですが、一番驚かされたのはそれが終わった後。実はスペイン優勝の立役者、オルガのずっと病を患っていたらしいお父さんが前日、お亡くなりになっていたそうで、いえ、ゴール祝いで見せた下のシャツに書かれていたのは母親を最近、亡くした親友へのメッセージだったんですけどね。オルガのお母さんと双子の兄弟はシドニーに来ており、訃報は聞いていたものの、決勝が終わるまで当人には知らせないことにしたのだとか。

うーん、今のところ、まだ父親の死因も、母親の方は応援に行けた理由も報道されていないため、ちょっと不可解な点はあるんですが、天国いるお父さんに最高の贈り物になったことは確か。ちなみにこの決勝のMVPはオルガですが、大会MVPはアイタナ・ボンマティ、若手最優秀選手はサルマのバルサ勢。最優秀GKはアープ、そして準々決勝スウェーデン戦で姿を消した日本の宮澤ひなた(マイナビ仙台)選手が5得点で大会得点王となったんですが、その彼女が2得点したグループリーグの日本戦で4-0とボコボコにされながら、スペインが決勝トーナメントで見事に立ち直ったのはホント、凄いことですよね。

そして月曜未明にはホテルで祝杯を挙げ、午前6時にマドリッドに戻る飛行機に乗ったチームはドバイ経由で午後9時半にバラハス空港に着陸。そこからバスで爆走して、セントロ(市内中心部)でオープンデッキバスに乗り換え、大勢のファンが舗道で迎える中、アルカラ門からスペイン広場へとパレードすると、最後は13年前に男子も祝勝会場として使ったプエンテ・デル・レイの河岸に着いたんですが…気温40℃の昼間ではなく、36℃まで下がった夜なのはありがたいとはいえ、午後9時から、野外フェス状態でチームの到着を零時まで待っていたおよそ2万人のファンたちもあっぱれ。ええ、もちろん私はTVの追っかけ中継を活用させてもらっています。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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