淡路市の中学生、2~3割が島外の高校進学 ホテルニューアワジの採用、島内出身は数%

早朝の岩屋港。多くの生徒が高速艇で島外に通学する=淡路市岩屋

 早朝、兵庫県淡路市北端の岩屋港。制服姿の若者が次々と高速艇に乗り込んでいく。すっかり見慣れた風景だ。対岸まで13分。海の向こう側は近い。

 島内3市で一番北に位置する淡路市では近年、島外の高校に進む中学生の割合が20~30%台で推移する。3市で最も高い。市北部の淡路、北淡、東浦の旧3町に限れば、さらに上がる。

 1998年の明石海峡大橋開通、2005年の市町合併、15年の公立高校の学区再編。いくつかの節目を経て、島と「本土」との垣根は見る見る低くなった。

 中でも学区再編は大きな転換点になった。神戸、阪神地域にも学区が広がったことで、島外の高校に通う生徒は一気に増えた。

 当初は若者の島外流出を危ぶむ声が多かった。しかし9年目に入り、空気は変わりつつある。

 「野球のうまい子が高校進学などで島を出ると、後ろ指をさされる時代もあった」と門康彦淡路市長。「でも今は違う。阪神タイガースの近本光司選手ら島出身者の活躍もあり、抵抗は薄れてきた」と感じる。

 同市・東浦地域の会社員男性(50)は、2人の娘が明石市の高校へ進学した。

 「2人とも英語が好きだったので、国際問題を学べる学科を選んだ。今は大学で国際関係について勉強している。学区再編で選択肢が増えたからこそできた」

    □

 一方、就職を機に島を離れる若者は昔から多い。高校卒業時、洲本実業高(洲本市)では約6割、淡路高(淡路市)では約5割の生徒が島外の企業を選び、島から出ていく。

 多数のホテルを展開するホテルニューアワジグループ(洲本市)はここ数年、毎年100~200人を新たに採用する。うち島内出身者は1~5%にとどまる。

 木下圭子女将(おかみ)は「淡路のことを語れるのは、やはり淡路の人」と島の人材を求めつつ「でも、都会に出たい気持ちもよく分かる」と理解を示す。

 残る人、出て行く人の流れはせわしない。でも、漫然と眺めていては何も変わらない。

 「島に戻って働きたくなる。そんな環境をつくることが企業の責務ではないか」。木下女将はそう考え、高校生に島の魅力を伝える活動などに力を注ぐ。

    □

 自治体も、若者を島に引き留め、呼び込もうと知恵を絞り続けてきた。

 旧津名町時代は関西看護医療大を、合併後の淡路市はAIE国際高校などを誘致した。同市は、市内2高校に通うためのコミュニティーバスも走らせた。

 兵庫県は、島内の高校の環境整備に本年度から6年で約300億円を投じる。7月に来島した斎藤元彦知事は、子育て中の移住者と意見を交わした際「島外に出なくても、島内でしっかり学び、スポーツにも打ち込める環境づくりを進める」と約束した。

 市内では近年、淡路島への本社機能一部移転を進める総合人材サービスのパソナグループ(東京)が多数の行楽施設や飲食店を展開し、島内に住む社員やその家族が増えている。

 新型コロナウイルス禍でテレワークなどが定着し、島への移住者も増加傾向。門市長は「教育環境の変化につながる」と期待する。

 同市の山本哲也教育長も「出て行くばかりでなく、島に入ってくる子どもも増えた。親の価値観も変わってきている」と感じる。

 少子化が進み、制度が変わり、島に次々と新たな風が吹き込む中、山本教育長は思いを強くする。「子どもたち一人一人が生き方を学べるような教育が求められている」

    

 淡路島で暮らす約1万8千人の子どもたち(18歳以下)。環境や制度の変化にさらされる学びの場に今、どんな風景が広がっているのか。目を凝らした。(内田世紀)

© 株式会社神戸新聞社