ElevationSpace、小型人工衛星用ハイブリッドスラスタの⾧時間燃焼に成功

軌道離脱を実現するような高い推力と、小型衛星に搭載可能な大きさ、経済性、安全性を兼ね備えるハイブリッドスラスタは、世界でも宇宙実証に至っている例がなく、ElevationSpace が2025 年に打ち上げを予定している無人小型衛星で世界に先駆けた実用化を目指すという。

また、本ハイブリッドスラスタは、打ち上げ数の急増する小型衛星市場で高い需要が見込まれるほか、月以遠への高頻度な宇宙探査実現にも寄与すると考えられ、今後も、国が「宇宙基本計画」で掲げる宇宙産業市場の拡大や宇宙開発領域における国際競争力向上に貢献できるよう、研究開発を加速していくとしている。

背景

昨今、リモートセンシングや衛星通信などを目的とした衛星質量500kg以下の小型または超小型人工衛星の需要が高まっており、経済産業省によると、2013年には年間100機に満たなかった小型衛星の打ち上げ数が、2020~2024年までに最大2,400機近くにのぼると予想されているという。

従来、小型~超小型衛星は、運用期間が短い・衛星自体の設計寿命が短いなどの理由で、スラスタ(推進装置)が搭載されていないことも多く、搭載されていても姿勢制御や軌道の微修正といった低推力のスラスタしか持たないケースが多くあった。

しかし、小型衛星が大量に打ち上げられるようになった結果、打ち上げ機会の確保やコスト低減のため、主衛星打ち上げロケットの空いているスペースに相乗りする「ピギーバック方式」で打ち上げられることが増え、ロケットから軌道に投入された後、小型衛星自身が希望する軌道高度へ自力でたどり着く必要があるなど、小型衛星がスラスタを持つ必要性が高まっている。

また、運用を終了した人工衛星などが軌道上に放置されることで「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」になる問題も深刻化しており、アメリカの連邦通信委員会(FCC)は、任務終了後、衛星が燃え尽きる軌道へ移るまでの期間を「25年以内」と定めた規則を、「5年以内」に変更すると発表するなど、衛星自身が運用終了後に、自ら速やかに軌道を離脱する性能を持つことが求められています。

一方で、従来の小型衛星用スラスタは数ニュートン級の推力しか持たないものが一般的であり、軌道の移動や離脱に必要となる数百ニュートン級の推力を実現することができない。

さらに、高い推力を実現できる燃料として用いられることの多いヒドラジンは毒性が高く、管理・取り扱いコストが高いために、小型衛星開発のメインプレーヤーとして台頭しつつあるスタートアップ企業が利用するには安全性・経済性の両面でハードルが高く、実用化が難しい状況だ。

以上のような社会背景を受け、安全性と経済性を維持しながら、高い推力を実現する小型衛星用スラスタの実用化を目指し、ElevationSpaceと学際研・齋藤助教はハイブリッドスラスタの研究開発を進めているという。

ハイブリッドスラスタの⾧時間燃焼成功について

ElevationSpace は、無人小型衛星を使って宇宙環境を利用した実証・実験を行うことができる宇宙環境利用プラットフォーム「ELS-R」の事業化に向け、学際研・齋藤助教と共同で、宇宙での実証・実験終了後に衛星が軌道を離脱し、地球へ帰還するためのハイブリッドスラスタの研究開発を行っている。

固体燃料と気体/液体酸化剤を用いた本ハイブリッドスラスタは、毒性の高い物質を利用しないため、取り扱いにかかる危険がなく、固体燃料のみのスラスタでは実現できない推力制御を行えることや、蒸発してしまう液体水素などと比べて貯蔵性にも⾧けているため、月以遠の深宇宙探査といった⾧期ミッションにも利用可能という利点があるという。

これまでの研究開発で、ハイブリッドスラスタ試作機への真空環境における着火に成功し、着火特性に対して再現性があることも確認している。

https://www.drone.jp/news/2023032312243064139.html

本ハイブリッドスラスタで、ElevationSpaceが2025年の打ち上げを目指す200kg級の衛星を地球に帰還させるためには、軌道を離脱する推力を得るために⾧時間の燃焼を行う必要があるが、この度実施した地上での燃焼試験において、目標とする⾧時間燃焼を達成することに成功した。

このことにより、一般に短時間の燃焼で高推力を発揮するスラスタとは一線を画した発想の設計原理を実証することができ、小型衛星用スラスタとして経済性、安全性を維持したまま高推力を実現するハイブリッドスラスタの世界初の宇宙実証に向け、大きく前進したという。

本試験の結果を受け、今後、真空環境での⾧時間燃焼試験などを行っていく計画だ。

また本研究成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成金「官民による若手研究者発掘支援事業(共同研究フェーズ)」の支援を受けて実施したという。

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