夏場に4ゴールでランキング上位に浮上。パリ世代のエースFWは地に足を着けて成長中/細谷真大(柏レイソル)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.20】

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2023年J1も残り9試合。横浜F・マリノスやヴィッセル神戸ら上位陣も混とんとしているが、下位争いも熾烈を極めている。

25節終了時点では、最下位の18位が勝ち点17の湘南ベルマーレ。17位が同20の柏レイソルだ。その上の16位が同21の横浜FC。この3チームのうち1チームがJ2自動降格に憂き目に遭う可能性が高そうだ。

今年5月に長年チームを率いていたネルシーニョ監督を解任し、ヘッドコーチだった井原正巳監督が昇格する形で再建を図っている柏は7月中旬の中断前まではなかなか白星を挙げられず苦しんだ。が、8月6日のリーグ再開後は京都サンガに勝利からスタート。セレッソ大阪、ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島という上位陣相手に3戦連続ドローと8月無敗で乗り切っており、チーム状態が右肩上がりなのは間違いないだろう。

そんなチームを力強くけん引している1人がパリ五輪世代のエースFW細谷真大だろう。今季は紛れもなく最前線の大黒柱と位置づけられている細谷だが、今季序盤は思うようにゴールを重ねられずに苦しんだ。

しかしながら、7月以降は一気に決定力がアップ。直近6戦で4ゴールの固め取りを見せ、ここまで9得点。昨季の8ゴールを早くも上回ったうえ、J1得点ランキングでも8位タイまで上がってきており、存在感を増しているのだ。

「もちろんゴール数ってところは前半戦に比べて増えましたし、攻撃のクオリティが上がったり、時間帯も増えてきたんで、うまくそこはゴール数と比例しているのかなと思います」と本人もチームの復調が自身の結果につながっているという見方をしている。

細谷の特筆すべき点は、FWの選手にも関わらずフル稼働が続いていること。これだけの酷暑の試合が続けば、前線アタッカーを入れ替えながら戦う監督が増えるのも当然のこと。だが、井原監督は彼に絶大な信頼を寄せているのか、90分近い時間プレーさせることが多い。本人も「暑さできついっていうのはあんまり感じないし、チームのために戦うっていうのが自分の特徴だと思うので、もっと走りたいと思います」と過酷な環境にめげることなく逞しさを前面に押し出す構えだ。

こうしたタフさはU-22日本代表の大岩剛監督にとっても頼もしい点に他ならないだろう。ご存じの通り、U-22日本代表は9月に五輪1次予選を兼ねたAFC・U-23選手権2024予選(バーレーン)を戦うことになっている。9月のバーレーンは最高気温37度、最低気温29度が平均で、今の首都圏より厳しいかもしれない。そういう環境下で、日本は9月6日にパキスタン、9日にパレスチナ、12日にバーレーンとの連戦を強いられるのだから、細谷のような選手が重要になってくるのは間違いない。

加えて言うと、パリ五輪世代の面々が今夏、次々と海外移籍に踏み切っており、コンディション的に未知数という不安要素もある。アタッカー陣を見ると、試合にある程度出ている小田裕太郎(ハーツ)はまだしも、鈴木唯人(ブレンビー)、佐藤恵允(ブレーメン)はほとんど公式戦を戦っていないため、どこまでプレーできるか分からない。だからこそ、国内組の細谷にかかる期待は大きい。

本人も強い自覚を持って挑むという。

「レイソルで試合に出続けられてますし、本当にコンディションは良いので、自分の良さをパリ世代の方に持っていけたらいいですね。ここでやっていることをそのまま大岩さんの下でできればベスト。パリ五輪も予選に勝たないと出れないわけですし、先を見るんじゃなくて、目の前の1試合1試合をしっかり勝っていかないといけない。自分がチームを勝たせられたらいいかなと思ってます」と彼は日常を大事にしながら9月に向かっていくつもりだ。

欧州移籍市場は8月31日まで開いているため、細谷も海外挑戦の可能性がゼロというわけではないが、彼自身は「レイソルでしっかりと結果を残し続けることが第一」と慎重なスタンスを取っている。

「多くの選手がこの夏、欧州へ行きましたけど、自分の性格上、あんまり気にしないタイプなので、今はここで頑張ろうと思っています。J1でまだ結果らしい結果を出せていないと思うので、やっぱりここで結果を出すことが欧州への近道。いつかは向こうでやってみたいとは思いますけど、まずはレイソルを勝たせて、タイトルを取らせるような存在になれるように頑張っていきます」

実にFWらしからぬ堅実なキャラクターの細谷。こういう地に足に着いた若武者は少しずつ階段を登っていくスタイルが合っているのだろう。柏のエースという重責を担う今はとにかくチームをJ1に残留させ、少しでも順位を上げるように務めることが一番だ。

地道な点取屋の確かな成長を楽しみに待ちたい。


【文・元川悦子】

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