「内灘は青春の場所」 砂丘フェスで唯川恵さん 創作秘話など語る

金沢学院大の蔀文学部長(右)に創作の思いを語る唯川さん=内灘町文化会館

  ●「故郷と愛」テーマ

 内灘砂丘フェスティバル(北國新聞社共催)は27日、内灘町文化会館で開かれ、月刊北國アクタスでエッセーを連載する金沢市出身の直木賞作家唯川恵さんが「故郷と愛」をテーマに創作に込めた思いを披露した。唯川さんは1984年のデビュー作「海色の午後」の舞台が内灘だと明かした上で「青春とは切っても切り離せない憧れの場所」と語り、約600人の聴衆を引きつけた。

 唯川さんの出演は2019年度に初めて企画されたが、コロナ下でたびたび中止となり、ようやく実現した。金沢学院大の蔀(しとみ)際子文学部長(徳田秋聲記念館長)と同町出身の北陸放送アナウンサー松村玲郎さんが聞き手を務めた。

 唯川さんは、海が見えるマンションに住み、医大生の恋人ができる女性が主人公の「海色の午後」について「内灘が舞台です。どうして地名を書かなかったのかな」と話して聴衆を沸かせた。さらに「子どもの頃は親に連れられ海水浴。高校時代は友達と浅電に乗って、ボーイフレンドができるとドライブで来た」と内灘への愛着を語った。作中に登場する喫茶店が松村さんの実家だったことも明かし、会場を和ませた。

 小説では海の様子で登場人物の心情を表すことも多いとし「悲しくても、うれしくても海を見に行きたくなる。金沢が舞台なら必ず内灘の海が出てくるし、ひねり出さなくても書ける自信がある」とも語った。

 内灘海岸も描かれた北國新聞の連載小説「恋せども、愛せども」(2004年)、同「淳子のてっぺん」(16年)や、金沢を舞台にした新作「梅ふくへおいでませ」などの裏話も披露した。来年で作家デビューから40周年となることを紹介し「恋愛を書き尽くした感があり、いろんなものにテーマを広げていきたい」と意欲を語った。

 砂丘フェスは、全国コンクールで数多くの受賞歴がある内灘中3年の坂下幸太郎さんのピアノ演奏で幕を開け、唯川さんのトークショー後、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の設立35周年記念コンサートが開かれた。北國新聞でエッセーを連載するOEKアーティスティック・リーダー広上淳一さんが指揮し、坂下さんとの共演も行われた。

広上氏の指揮で演奏するOEK

© 株式会社北國新聞社