生後2カ月で被災、記憶ない「阪神・淡路」 葛藤重ね語り部に励む女性 五感で伝え聞いた家族の体験、臨場感たっぷりと

「命を大切にして生きて」。震災の絵本を読み上げる米山未来さん=神戸市中央区脇浜海岸通1

 生後2カ月で阪神・淡路大震災に遭い、記憶がない中で葛藤しながら語り部活動に励む女性がいる。兵庫県北淡町(現・同県淡路市)出身の会社員、米山未来(こめやまみく)さん(28)=川崎市。11日に人と防災未来センター(神戸市中央区)で五感で伝え聞いた震災体験を語り、子どもから大人まで、オンラインも含めて約40人が聞き入った。(名倉あかり)

 震災当時、米山さんは0歳。語り部として教訓を伝え続ける父・正幸さんの姿を見て育ち、2019年夏から災害への備えを動画配信アプリなどで発信してきた。

 「ドンという大きな音と下から突き上げられる衝撃。『あっ』というお母さんの声に私のお父さんは目を覚ましました」

 あの日は親子3人、川の字で寝ていた。米山さんの上に母親が、母親の上に父親が覆いかぶさり、身をていして守ってくれた。米山さんは「そのおかげで今日、私はここに立っていられる」と振り返った。

 食器が割れる音、淡路島では珍しく降っていた雪、中身が飛び出した調味料のにおい-。激震直後の家族の行動を丁寧にたどりながら、臨場感たっぷりに語った。

 子どもの参加者にも伝わるよう、地震でタンスの下敷きになって亡くなった小学生の絵本も朗読。「命の上に成り立つ教訓のおかげで備えができることを忘れないで」と呼びかけた。

 「記憶のない人が、何を語り継ぐのか」。語り部活動に対し、懐疑的な声も耳にしてきた。時には被災した当事者からも批判を受け、「やっぱり資格がないんかな」と何度も自身に問い続けてきた。

 今年5月、大先輩の語り部たちを前に話す機会があった。勇気を振り絞り、「だったそうです」といった伝聞調をやめて震災を語った。「あなたみたいな人を待ってた」。温かく受け入れてもらい、ようやく批判や疑問に対する答えが自分の中で明確になっていった。

 口を開くのはまだ怖さもあるが、「『二度と同じ被害を出したくない』という被災した人々の思いを引き継ぎたい」と米山さん。「語り部は経験していなくてもやっていい」と断言してくれた父の言葉も心の支えになっている。

 話を聞きに来た会社員の男性(66)=神戸市中央区=は当時、神戸市役所近くのマンションで被災。幼い子ども2人と揺れに見舞われた記憶がよみがえったといい、「生きていて本当によかったですね」と涙を浮かべて米山さんをねぎらっていた。

© 株式会社神戸新聞社