社説:おひとりさま 家族なしでも困らぬ社会に

 身寄りのない高齢者というと、家族や親戚が一人もいないイメージが浮かぶ。

 だが、家族がいてもさまざまな事情で「いざという時に頼れない」といえば、自分のことだと感じる人は少なくないのではないか。

 そんな「おひとりさま」のニーズに応じて増えているのが、家族の代わりをする民間の高齢者サポート事業だ。

 入院・施設入所時の身元保証をはじめ、日常生活支援、死後事務を有償で請け負う。認知症の人などを想定した成年後見制度よりも、対象は幅広い。

 ただ、こうした事業を規制する法令や監督官庁はなく、利用者との契約トラブルも起きている。加藤勝信厚生労働相は先日の記者会見で、本年度中に身元保証など民間サポート事業の実態調査の結果をまとめる考えを示した。

 現状把握とともに、課題の整理と対応策を急がねばならない。厚労省が中心になり、権利擁護や地域福祉に関わる官民の機関が連携する必要がある。

 全国の消費生活センターには2018年度、民間サポート事業に関する苦情や相談が計101件寄せられた。「預託金100万円を支払うよう言われているが、詳細な説明がない」「約束されたサービスが提供されない」「解約時の返金額に納得できない」などである。

 行政相談を所管する総務省が今月公表した調査報告によると、把握できた全国約400のサポート事業者のうち、調査に応じた204事業者の約8割が、サービスに必要な費用や解約時の対応といった重要事項を利用者に伝える説明書を作っていなかった。預託金を代表者の個人口座で管理するなど、流用が起きかねない例もあった。

 これでは社会的な信頼はおぼつかない。国のガイドラインや登録制度を求める声は、事業者自身や自治体からも上がっている。しっかりしたルールを設け、利用者の安心につなげることが欠かせない。

 国は、保証人がないことを理由に単身高齢者の入院・入所を拒まないよう求めている。だが、緊急時の連絡や費用の立て替えに対応できる人がいない場合、施設側に受け入れを断られがちなのが現実だ。火葬や遺品の引き取りを含め、老後に関わる事柄のほとんどは家族がいることを前提にしている。

 独身を続ける人のほか、配偶者に先立たれたり、子どもと疎遠になったりするリスクは誰もが抱えている。

 2000年に約300万世帯だった高齢の独居世帯は、この20年間で倍増した。40年には900万世帯近くになると見込まれている。

 家族に頼る従来モデルだけでは、もはや社会が立ち行かない。「おひとりさま」でも困らない仕組みづくりに、国や自治体は本腰を入れて取り組むべき時である。

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