宝塚雪組公演「双曲線上のカルテ」開幕 和希そら、影のある外科医を好演

フェルナンド(左、和希そら)と同僚医師のランベルト(眞ノ宮るい)=大阪市北区、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

 宝塚歌劇雪組のミュージカル公演「双曲線上のカルテ」が28日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。ある外科医の葛藤と淡い恋を通じ、かけがえのない命の大切さを訴える。主役の和希(かずき)そらが、孤独な外科医フェルナンドを丁寧に演じ、その成長ぶりを見せた。

 渡辺淳一の医療小説「無影燈」が原作。石田昌也の監修・脚本で舞台をイタリアに移し、ミュージカル化、2012年に雪組の早霧(さぎり)せいな主演で上演された。再演となる今回は樫畑亜依子が潤色・演出に当たった。

 外科医としての腕は超一流なのにエリートコースに乗らず、小さな病院で働くフェルナンド(和希)は、勤務中にも酒場に出かけ、付き合う女性は数知れず。常識破りの行動のため院内では浮いた存在だが、彼なりの信条を持って患者と接する様子に、看護師のモニカ(華純紗那=かすみ・さな)は次第に思いを寄せる。だがフェルナンドは、ある秘密を抱え、放射線技師のジョルダーノ(久城=くじょう=あす)と頻繁にやりとりをしていた。

 切れ長の目、長い手足、医師らしからぬ長髪…少女漫画から飛び出してきたかのような現実離れした美しさの和希から目が離せない。終始、苦み走った表情でクールに決めるニヒルなフェルナンド。病院での白衣姿、バーに出かける時のトレンチコートの着こなし、三つぞろえのスーツと、ファッションはどれをとっても決まっている。

 ビジュアルだけではない。抑制の利いたせりふ回し、かと思えばモニカとのつかの間の時間を楽しむ時の笑顔。ちょっとしたしぐさや目線の変化で感情の振れ幅を表現し、物語の核心となるフェルナンドの影の部分についても説得力を持って示すことができた。

 華純は純粋なモニカを気負いなく演じ、その屈託のない明るさでフェルナンドの影をよりくっきりと際立たせた。

 対立しつつもよき理解者となるフェルナンドの同僚医師、ランベルト役だった縣千(あがた・せん)が休演することに。急きょ、抜てきされた眞ノ宮(まのみや)るいが、若干の硬さは残るものの、堂々の演技で物語の一翼を担い、雪組の層の厚さを見せつけた。

 伸びやかな声で聞かせた歌唱、2幕の幕開けや、最後のショー部分で見せた和希のダンスはこれまた伸びやかで切れもあり、身体能力の高さを発揮した。今後、舞台上の和希に目が行く時間は確実に長くなりそうだ。

 9月5日まで(8月31日休演)。9月11~19日、東京・日本青年館ホールで(14日休演)。 (片岡達美)

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