「朝鮮人に違いない」…関東大震災直後、行商団9人はなぜ殺された 映画「福田村事件」が描くもの

映画の一場面((c)「福田村事件」プロジェクト2023)

 関東大震災直後、「朝鮮人が集団で襲ってくる」などの流言飛語が飛び交う中、千葉県福田村(現野田市)で朝鮮人に間違われた日本人9人が村人たちに殺害される事件があった。この実話を基に、初の劇映画「福田村事件」を撮ったのが、オウム真理教の実態をあぶりだす「A」をはじめ数々のドキュメンタリーを手がけてきた森達也監督。震災発生から100年の9月1日に全国公開する。

 1923年9月6日、自警団が率いる100人以上の村人が、香川から行商に来ていた薬売り15人の讃岐弁がよく理解できず、「朝鮮人に違いない」と幼児、妊婦を含む9人を竹やりやとび口、銃で殺害。自警団員8人が逮捕、有罪となるが大正天皇死去に伴う恩赦ですぐに釈放された。

 森監督は2002年、野田市に慰霊碑を作るという新聞記事を目にして、ドキュメンタリー番組の企画をテレビ各局に持ち込んだが採用されなかった。「行商団は被差別部落出身者で、朝鮮人虐殺の問題と合わせ、テレビでは二重に難しかったのでしょう」

 その後、事件の存在を知った脚本家の荒井晴彦さんらが映画製作に動き、森監督も加わった。

 脚本は当時の裁判記録や記事、書籍「福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇」(辻野弥生著)などを基に創り上げた。

 「加害者は悪の権化、という描き方はしたくなかった」と森監督。群衆心理で動く村人をサスペンスドラマのような展開で見せる。

 朝鮮で日本軍による朝鮮人虐殺を目撃して帰郷した元教師(井浦新さん)と妻(田中麗奈さん)、村長(豊原功補さん)ら、暴走を止めようとする人物も登場。村人の輪から外れた船渡し(東出昌大さん)は冷めた目で見ていた。

 一方、地元新聞の編集長(ピエール瀧さん)は記者(木竜麻生さん)が目撃した朝鮮人殺害の事実を握りつぶし、政府の戒厳令に沿って朝鮮人や社会主義者への敵意に満ちた紙面を作る。「本来、(新聞を読むような)インテリ層が事態を止める立場にあるが、彼らの弱さを出したかった」と森監督は説明する。

 行商団の頭(永山瑛太さん)が最後に放つひと言が観客の心にも突き刺さる。100年たち、我々の社会は、意識は変わったのだろうか。

 兵庫ではシネ・リーブル神戸、宝塚・シネピピアで9月8日から、元町映画館で9日から公開する。(片岡達美)

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