必要な引きこもりってあるのかも 宮本亞門さん 個性を認めて「どうせ」から「きっと」へ「きっと将来は楽しくなる」

小中高生の孤独に一歩寄り添うキャンペーンと題して、4月からの生活で悩んでいたり、孤独を感じていたりする小中高生に同じような経験をした著名人の方に当時の話や、いまになって思うことを4回シリーズで伺っています。最終回は不登校の経験があるという演出家の宮本亞門さんに、SBS『IPPO』の牧野克彦アナウンサーがお話を伺いました。

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仏像が好きな高校生 日本の学校では個性が邪魔になる

牧野:宮本亞門さんというと、非常に気さく、かつ明るく、エネルギッシュなイメージがあるんですけども、不登校を経験なさっていたということなんですよね。

宮本:そうなんです。僕の場合は、実をいいますと、この明るさというのはあまりにも過去に暗い思い出があったということが影響しているということなんですね。高校生のときは1年間くらい不登校でした。最初は失恋がきっかけだったんですけども、自分が生きてる価値がないんじゃないかと、本当に恥ずかしながら自殺ばかり考えているようなときがありました。

牧野:高校生のときということでしたけども、その前からそういう何か引きこもる前兆のようなものがあったのか、それとも、突然ひきこもりになったんですか。

宮本:元々子どものときから、ちょっと人と違うというか。例えば、みんなが「あのアイドルかわいいね」って学校で話題にしていても、自分はそこに別にあんまり興味ないのに一緒に同意して、何とかみんなに嫌われないようにしていたところから、だんだん違和感を感じていました。

私はその頃、お茶とか仏像とか、そういうものが好きだったんですけど、人に語れずに変人扱いされるというか、そういう意味ではちょっと変わった子と思われていただけに、人との交流が苦手だし、これ以上無理やり交流してもしょうがないという暗い子でした。

牧野:ある意味、個性的で非常に深みのある子どもだったのかなと思うんですけども、世の中の普通を求める雰囲気の中で、ちょっと引け目を感じられていたのですか?

宮本:やっぱり学校というのは授業をして、その授業による成績がいい子がみんなに認められるとか、違う考えを持っていることを面白いって、みんなで話し合うって時間がほとんどない。とにかく教えられることをこなすだけで、個性を生かすというよりは、むしろ個性があることが邪魔になっていたと感じていました。

僕は先生がこうだといっても「いや、ちょっと待って、本当はこういう考え方もあるんじゃないですか」って本当は話したいぐらいだったけど、そういう時間もなく進んでいくのが残念ながら日本の義務教育であると思うんですね。個性こそがその人のあり方っていうふうに世界が変わってきている中で、顔が見えないといわれてしまうのは、子どものときから自分の意見をどういうかっていうことを訓練されてないんじゃないかと僕は正直思ってます。

「生きている価値がないんじゃないかという恐怖感」周りと合わず自己否定感が増大

牧野:宮本亞門さんの高校生時代は、特にそうした風潮がいま以上にあったでしょうね。

宮本:あと僕の中でも忖度というか、周りと合わせなきゃだめなんだと思い過ぎていたことが、自分が生きている価値がないんじゃないかという恐怖感になってしまったんだけど、いま思うと、個性こそ本当は素晴らしいと仕事をするようになってやっと分かってきたんです。大人になって本当に自分の好きなことを考えて、仲間も増えてくるという楽しさは、子どものときはわからなかったですね。

牧野:そのひきこもりの時代はどんなふうに生活なさっていたんですか?

宮本:窓のない四畳半で、内側から鍵をかけることができる、ひきこもりには最適の部屋でした。レコードが10枚ぐらいあって、それを毎日聞いていました。その中の音楽からくるイメージを自分の頭の中で妄想して、興奮したり、泣いたり、そんな1年間でした。特に1枚のレコードを何回も聞くわけなんですけど、聞くたびに音が違って聞こえるんですよね。そして、とにかくこの曲の素晴らしさを人に伝えたいとか、これって仕事にならないのかなって、演出家や映画監督になったらできるかなと思うようになったんです。

牧野:ご両親はそこから引っ張り出そうという動きをなさってたんですか?

宮本:親父からは「お前は絶対に慶應義塾大学に入れ」と赤ちゃんのときからいわれていたので、ダメ息子と僕のことを思っていたのは、事実だと思います。

牧野:そんな中でご自身は抜け出そうという気持ちでいらしたのか?

宮本:抜け出したいんですが、抜け出せなかった。どういうふうにきっかけを掴んでいいかもわからないし、やはり学校が怖いし、ますます自分が変わった人になってしまったんじゃないか、将来はないんじゃないかって勝手に自分でそう思い込んでいましたね。

「病院に行って」母の懇願で精神科へ 「違っていいんだよ」「違うことって個性なんだ」

牧野:何かそれを脱するターニングポイントはあったんでしょうか?

宮本:家の中でもう大混乱になっちゃって、父も酔っ払って、僕が学校行かないから悪いんだって僕に暴力をふるうことがあって、母と僕が外へ逃げたんですね。そのときに母が「もう、わかった。あなた本当に学校行きたくないんでしょ」って言ってくれて、僕が「学校が悪いわけじゃないんだけど、もう怖いんだよ」と言ったら、「お願いだから約束してほしいことがある。それを約束してくれたらもう学校行かなくていい」っていってくれたんで、「いいよ、約束するよ」って言ったら、「病院に行って」って母に言われたんですよ。病院の精神科に見てもらいましょうと約束してしまって、最初はびっくりしちゃったんですけど、精神科医に診てもらったというのがきっかけでした。

牧野:実際行かれてみて、病院の印象というのはいかがでしたか?

宮本:病院の前に立ったときは、「僕はもうこれで、いよいよ終わりなんだ。病院に閉じ込められる。周りからはダメなやつという刻印を押される」と思って先生に会ったら、まったく違っていて、先生は何一つ否定しない方で、「そうか、そんな考えもあるんだ、おもしろいね。宮本くんっておもしろいね」としかいわなかったんですね。

牧野:いい先生でしたね!

宮本:びっくりしました。正直言うと、最初これで診察料もらっているのっていいたいぐらいだったんだけども、それが僕にとってはよかった。いままで普通は学校に行くもんだ、みんなとは違うと周りからいわれていたので、その精神科医に通うようになって、「違っていいんだよ」、「違うことって個性なんだ」、「いやおもしろいんだよ、それはおもしろいんだよ」って言ってくれたことが、演出家になった原点になったと感じています。

牧野:いま、悩みを抱えてる方の中にも、なかなか友達や家族には相談しにくいという方もいると思いますが、ひょっとしたら、お医者さんに行くことによって解決に向かうこともあるかもしれないんですね。

宮本:お医者さんでもいいかもしれないし、まったく違う人でもいいかもしれない。どうしても普通というのが求められてしまうと、本当に個性があるおもしろい考えや、そういう光る原石を持っている人たちが、そこで封鎖されちゃうんで、それこそもったいない。いまはネットもあるし、「あれおもしろいよね」って一緒に話せたりする仲間たちとつながって、「将来、僕はゲームを作るんだ」っていうこともあるかもしれない。当時、僕は怖くて変われなかったけれども、とりあえず恐れずに、人はみんな違ってていいと、そんな違う個性があるから素晴らしいんだっていうことを知ってもらうとうれしいですよね。

引きこもったから人の辛さに寄り添える 今はいろんな人に出会えて嬉しいんだ

牧野:当時を振り返って、いま、思うことはどんなことですか?

宮本:いま言えることは、「そんなに苦しまなくてよかったよ、大丈夫だよ」って、当時の自分には言ってあげたいですし、僕は不登校があったから、いまがあるんです。あれがなかったらブレーキをかけられなかったかもしれない。もう巨大なブレーキだったけども、親が「ずっとお前は大丈夫。いま、苦しいけど絶対大丈夫だから。お前を愛してるよ。お前のことは大切だよ」といい続けてくれたことが、僕の最後の支えになっていたというのはありますね。

牧野:そこに愛があったんですね。

宮本:お前はだめだとかいわれちゃったら、本当にそれを全部真に受けちゃうくらい当時は繊細になっていたので、「大丈夫だよ」と母がいってくれて、1人でも「大丈夫だよ」って家族が声をかけてくれたことが僕の救いになりましたね。

牧野:辛い経験があったからこそ、いま、頑張れているというところもあるんでしょうか?

宮本:そうですね。お陰さまで役者さんも舞台関係じゃない人の出会いでも、みなさんいろんな辛い経験は必ずしてるはずなので、そうした気持ちがわかるので、それをドラマにしたり、舞台にしたり、経験がすべて宝物になったりしているんですね。僕は今、本当に仕事させてもらってうれしいし、いろんな人に出会って、僕も自分の経験をオープンに話して、仕事ができるのはあの経験があったからだと思います。

「ひきこもりは大切なブレーキだった」じゃなかったら舞台演出家、宮本亞門はいなかった

牧野:高校生のときの自分に対して、ひきこもるなっていいますか?

宮本:ひきこもってよかったねって、ひきこもりは本当に大切なブレーキだったから。日本の教育はあまりにも自分と向き合わずにどんどん進んで行っちゃうけど、周りに比べられて比べられて「僕、だめなんじゃないか」だけになりがちだっただけに、あのブレーキは僕には必要でした。じゃなかったら僕、いま、舞台を演出したり、人と「亞門さんそんな発想があるんだ」とか、「こんな考えやこんな視点があるんだ」っていうことは考えられなかったかもしれない。

牧野:そこでイマジネーションがどんどん生まれて脳内が開発されていったっていう事もあるんでしょうね。

宮本:そのおかげで僕もきょうこうやってインタビューを受けているということです。

牧野:誤解を恐れずにいえば、必要な引きこもりってひょっとしたらあるのかもしれませんね。

宮本:自分のバランスってみんな違うんですよね。それを痛みに思わない方もいるかもしれないし、僕みたいにちょっと過敏すぎる人には辛かったりするし、みんな違っていていいんであって、「みんなやってるでしょう」なんていわないであげて、ゆっくり寄り添ったり、本当に心を開いて静かに話せるようなっていたらよかったなと思いますが、親も必死だったんでしょうね。

牧野:ラジオの前で悩んでらっしゃる方もいらっしゃると思いますけども、最後に一言、亞門さんからメッセージをお願いできますでしょうか?

宮本:僕が昔思ったのは、「どうせ、いくら頑張っても将来こうだよ」とか、自信がないと「どうせ」ばっかりだったんですね。「どうせ」ってついつい頭に浮かびがちなんですけどでも、それを1回ちょっと横に置いて、「きっと大丈夫だよっ」ていう「きっと」っていう気持ちを大切に大人になってくと、生きていて楽しいよ。いまつらいけど、将来は「きっと」面白くなるよって、「どうせ」という言葉を頭の中で「きっと」に変換していくと何か明るい光が見えてくるようなそんな気がします。

【厚生労働省がHPで紹介している主な悩み相談窓口】
◇いのちの電話
0120-783-556(午後4時~午後9時、毎月10日は午前8時~翌日午前9時)
0570-783-556(午前10時~午後10時)

◇#いのちSOS
0120-061-338(日~火、金は24時間対応、水、木、土は午前6時~深夜0時)

◇こころの健康相談統一ダイヤル
0570-064-556(相談対応の曜日・時間は都道府県によって異なります)

◇よりそいホットライン
0120-279-338(24時間対応)
岩手県、宮城県、福島県からは0120-279-226(24時間対応)

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