神出病院の入院患者虐待 前理事長を排除、高額報酬の返還を請求へ 新運営法人の理事長が方針

事件について初めて公の場で謝罪する聖和錦秀会の種子田護理事長(中央)ら=神戸市中央区八幡通4、三宮研修センター

 2020年に発覚した精神科病院「神出病院」(神戸市西区)の入院患者虐待事件に関し、神戸市の付属機関で、再発防止策を話し合う市民福祉調査委員会の精神保健福祉専門分科会が8月31日、同市内で開かれた。同病院の運営を今春引き継いだ法人「聖和錦秀会」(大阪府東大阪市)の種子田護理事長が出席し、公式の場で初めて事件について謝罪。同法人は、事件当時に病院を運営していた「兵庫錦秀会」の籔本雅巳前理事長と決別し、前理事長に支払われた高額な役員報酬などの返還を請求する方針を示した。(前川茂之)

 同病院は錦秀会グループ(本部・大阪市)の兵庫錦秀会が運営していたが、今年4月に解散したため、同じグループ内の聖和錦秀会が運営を引き継いだ。理事長は、同法人でも兵庫錦秀会の籔本前理事長が務めていたが、21年に日本大の背任事件に絡んで逮捕され、後任として種子田氏が同年9月に就任。専門分科会が出席を求めていた。

 冒頭、種子田氏は「患者さまやご家族、および関係者に多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません」と謝罪。その上で「神出病院は解体的な出直しを図り、新たな組織づくりをしている。第三者委員会の提言や行政指導を踏まえて問題点を正し、病院再生に尽力したい」とした。

 専門分科会の委員からは、錦秀会グループの理事長でもあった籔本前理事長との関係を問いただす質問が相次いだ。

 「本当に前理事長と決別できるのか」との質問に対し、法人幹部は「金融機関からも『排除しろ』と言われている。経営には関わらせない」と断言。第三者委が約18億円と指摘した籔本前理事長の「不当利得」についても「額は弁護士とも相談するが、前理事長や役員らに返還を求めていきたい」とした。一方、記者会見を求める意見には「持ち帰って検討する」と述べるにとどめた。

 また事件後の意向調査で111人の入院患者が退院を希望していたが、8月1日時点で実際に退院したのは、14人の死亡者を含む33人。死亡退院者の割合は19年の44%から22年の33%へと減ったが、神戸市内14の精神科病院で最も高い割合だったことも報告された。 【神出病院の入院患者虐待事件】2020年3月に看護師ら6人が患者への準強制わいせつ容疑などで逮捕され、男性患者同士を無理やりキスさせたり、ホースやバケツで水や湯をかけたりした行為が発覚。全員が起訴され、有罪判決を受けた。同病院が設置した第三者委員会は調査の結果、少なくとも09年以降に27人の関与で84件の虐待があったと報告。神戸市は病院に改善命令を出し、市民福祉調査委員会の精神保健福祉専門分科会も「解体的出直し」を求めた。

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