「熱海市は黙りに黙っていた」補助金制度にインフラ整備…土石流警戒区域 2年2か月ぶり解除もぬぐえぬ行政への不信感

2021年7月、静岡県熱海市で発生した土石流災害によって立ち入り禁止となっていた警戒区域が9月1日、災害の発生から約2年2か月ぶりに解除されました。

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<滝澤悠希キャスター>
「安全が確保されたとして伊豆山の警戒区域が解除されました。ただ、被害の爪痕は、いまも残されています。例えば、この土地、これ以上崩れることがないようにいまもシートに覆われています。道路の反対側は2mほどの大きさでしょうか、巨大な岩がいくつも残されています。さらにこちらの住宅は、土石流災害で建物の一部が押し流されて、いまも木で仮の補強がされているのみの状態となっています。そしてライフラインの整備も遅れていて、新たな電柱がつくられていますが、奥の電柱を境につながっていません。つまり、これより下の地域には電気は通っていません。きょう、ひとつの節目を迎えたものの、被災地は元の姿を取り戻したわけではありません」

<熱海市 斉藤栄市長>
「9月1日午前9時、警戒区域を解除します」

<滝澤悠希キャスター>
「午前9時です。いま、斉藤市長によって立ち入り禁止エリア前のロープが外されました。これをもって警戒区域が解除となりました」

災害から2年2か月、ようやく自由な出入りが可能になった被災地。熱海市によりますと、避難生活を送っているのは100世帯180人(8月30日時点)で、そのうち、41世帯82人がこの区域への帰還を希望しています。

一方で、39世帯62人が区域外での生活の再建を希望し、20世帯36人が未定と回答しています。そして、ライフラインの整備が遅れているなどの理由から、9月中の帰還を予定している人は、7世帯13人程度にとどまっているのが現状です。

<小松昭一さん>
「やっと家に帰れるんだということで、ホッとした、安堵した気持ち」

小松昭一さん(91)。早い時期から伊豆山に戻ることを決め、7月頃から自宅の改修工事に取り掛かっていました。しかし、警戒区域が解除される9月1日までにライフラインの整備は間に合わず、自宅の電気はつきませんでした。

<小松昭一さん>
「全部復旧していることが私の脳裏にはあったが、いざ帰ろうと思ったらこういう状況」

自宅に戻る日は、予定よりも1か月ほど遅くなりそうだといいます。一方、住民の中には、被災エリアに「戻らない」という選択をした人もいます。

<田中公一さん>
Q.完成間近ですね?
「あとこれで外回りができれば大体。建物の中はほぼ終わっている」

田中公一さん(74)。土石流で最愛の妻を亡くし、熱海市内の仮設住宅で暮らしていますが、妻と過ごした自宅ではなく、被災エリア外の別の土地に家を建て直しています。

<田中公一さん>
「結局、復旧復興が進まない。わたしの年齢を考えると、被災エリア内に住めるまで、相当時間が掛かるんじゃないかと。その頃にはわたしができなくなっている」

かつて、自宅があった場所を見ながら、田中さんは「進まない復旧」へのもどかしさを口にしました。

<田中公一さん>
「もっと早い時点で解除になるのが分かっていれば、こちらに住んでもよかったわけですよね。だけど、そういう気配を何もみせないで、今年の4月まで。(市は)黙りに黙ってましたよね」

被災住民の口から漏れるのは、「市の対応への不満」です。特に住民が問題視しているのは、宅地復旧に対する「補助金制度」です。

以前、市は被災した宅地を一旦、市が買い取り、分譲する方式を住民に示していましたが、被災者自ら宅地を造成し、復旧費用の9割を補助する方式に方針転換。二転三転する市の方針や説明不足の対応に住民の不満が爆発しました。

<被災者>
「実際もっと対話する場があってもよかったと思う。信頼関係がないんですよ。信頼関係がない中でこういう議論を重ねても不信感しかないんですよ。みんな」

市は宅地復旧の方針について、9月末をめどに決定するとしていますが、二転三転する市の対応に被災者たちは振り回されています。

<小松こづ江さん>
「ただいま」

小松こづ江さん(73)は、被災エリアへの帰還を望みながら、そのめどは立っていません。

<小松こづ江さん>
「このようにひずみが来ている。空いちゃっている。すごいでしょ。ここも直さないといけないなと」

半壊した自宅を直さないことには、帰還は叶いません。しかし、市による用地買収が難航しているため、自宅付近の道路の整備が進まず、自宅の改修に手をつけられないのが実情です。

<小松こづ江さん>
「私だって早く帰りたいです。帰れないもどかしさは十分にありますね」

先の見えない状況に不信感は募る一方です。

<小松こづ江さん>
「(市に)『ちゃんとインフラ整備をしてくださいますね?』といったら、『インフラちゃんと通しますよ、道もちゃんとしますよ』っていわれた。道なんか、何もできていないじゃないですか。インフラ、何ができているんですかって」

土石流災害を忘れないように、とあの日のままにしているカレンダー。被災者の中には、2年前から進めていない人たちもいます。

<滝澤悠希キャスター>
「早く戻りたいと思っていても、ライフラインの整備が進まず戻れない。その苦悩は大きいと思います。9月3日で災害の発生から2年2か月。ただ、多くの住民が新たな暮らしのスタートラインにすら立てていません。住民と行政への間の溝は埋まらず、復興の完了には長い道のりがあります。

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