京都・福知山の女性ピアノ調律師「音の魅力伝えたい」 東京から戻って3年、抱く新たな夢

基準の音に調整する桐村さん(京都府福知山市上新)

 ひじをたたいて振動させた音叉(おんさ)をピアノの親板に当て、鍵盤から響く音と慎重に聞き比べる。弦が巻き付いたピンを専用の道具で回し、張り具合を変える。ピアノ調律師の桐村望さん(39)=京都府福知山市=は、一つの音の調整に、230本全ての弦を触って調和を取る。わずかな音のたゆみに耳を澄ます姿は、さながら楽器の専門医だ。

 福知山市で家業の書店を継いだ夫の継史さん(39)を手伝いながら週1回、調律師として府北部を中心にピアノ教室や個人宅を回る。「思い通りの音が出たりお客さんから弾きやすくなったと言われると、うれしい」と目を輝かす。

 進路選択が迫った高校3年の夏。和歌山県御坊市の自宅で調律に立ち会い、2歳から続けてきたピアノの内部を初めて見た。調律後に鍵盤に向かうと、指が驚くほど滑らかに動き音が弾んだ。「なんていい弾き心地だろう」。音楽との新たな付き合い方を見つけた。

 京都市内の専門学校で学び、20歳で福知山市の楽器店に就職した。「ピアノも喜んでるみたいにいい音がする」と言ってくれる客の笑顔が支えだった。一方で、目に見えない「音」の修正に理解を得られずクレームを受けることもあった。「他の調律師なら直せるのかな。私には向いていないかも」。相談相手がおらず、徐々に自信を失った。

 いったん離れようと、33歳で継史さんと東京に出て化粧品会社に勤めた。1年後、継史さんが働く楽器店から誘われ再び調律師に戻った。同僚からこれまで培ってきた技術を評価され、「今までの仕事に間違いはなかった」と確信する。

 2020年に福知山に帰ってきた。客の要望に寄り添う調律を心がけ、ピアノ運送の事業立ち上げを目標に奔走する。「今度こそここで、多くの人に音の魅力を伝えたい」。人生のリベンジを誓う。

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