「手術した方がいいね」宣告は突然に…動揺走る「まじっすかぁ」 福井新聞記者の心臓手術体験記

「うん? ちょっと雑音聞こえるね。今まで言われたことある?」

会社の健康診断で、聴診器を胸に当てていた医師が聞いてきました。

「いやあ、ないっすねえ。先生、なんか変ですか?」

医師は再び聴診器を胸に当て、何かを確認しているようでした。そして「一度、精密検査受けた方がいいね」。

急な展開に戸惑いながら、質問をぶつけました。「先生、何の疑いでしょうか?」

医師は私の目を見て「弁膜症かもね」と言いました。即座に理解はできませんでしたが、心臓の異変だということだけは分かりました。

「僕、マラソンとか山登りとかするんですけど…」。医師は「まあ、検査の結果が出るまでは一応控えてください」。何か得体の知らないベルトコンベヤーにのせられたようでした。

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小学校時代から駆けっこは得意で、地元では「和製カールルイス」(年がばれますが)と呼ばれたこともありました。

しかし長距離はからきしでした。1500メートル走などは、クラスでも常に最下位争い。中学校では部活でバレーボールをしましたが、練習では最初に息が上がりました。

82歳で亡くなった祖母は、心臓が悪く、いつも息切れしているような感じでした。少し歩くと「ヒーヒー」と息を吐いていました。そんな祖母を見ていましたから、「自分もばあちゃんと同じ病気なのかなあ」と、漠然とは思っていました。

ばあちゃんの病気は「弁膜症」でした。健康診断で医師にそれを告げられたときは「ついに、来たぁぁ」という感覚でもありました。

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精密検査では胸のまわりを超音波(エコー)で撮影しました。技師は最初「10分ほど」と言っていましたが、10分を過ぎたあたりで「体勢大丈夫ですか。もう少し時間がかかりますからね」と延長宣言。嫌な予感がしました。

全ての検査を終え、医師と向かい合いました。医師の背後には、私の心臓の映像が映し出されていました。極度に緊張してきました。

医師は映像を見ながら「弁の不調で、ちょっと血液が逆流していますね。心臓のサイズも大きくなっています」と言いました。このコメントは記憶のままに書いているので、細かい部分では間違っているかもしれませんが、大筋ではこんな感じでした。そして最後にこう言いました。

「手術した方がいいね」

突然の宣告でした。深刻さもなく、一瞬間をあけるわけでもなく「風邪ですね。お薬出しておきます」と同じリズムでした。

「まじっすかぁ」。私は動揺を隠すので精いっぱいでした。

「うちの病院では手術はできません。紹介状を書いておきますね。一番症例が多いのが循環器病院。大学病院、県立病院でもやっています。どこにしましょうか?」

不気味なベルトコンベヤーは、心臓手術に向かって、ゆっくり動きだしました。

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健康診断にひっかかり急きょ心臓を手術することになりました。不安でいっぱいですが、手術するまでの様子をリポートします。

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