【フィリピン】インフラ整備「30年遅れ」[経済] 21兆円事業で挽回、長期計画も

マニラ首都圏では道路インフラの整備が活発になっている=4日、パラニャーケ市(NNA撮影)

フィリピンで道路や鉄道のインフラ整備が東南アジア主要国と比べて約30年遅れているとの指摘が出ている。マルコス元大統領による独裁政権が長期化したことや外資企業による投資が少ないことが背景にある。息子のマルコス現大統領は前政権と比べ7割増となる事業費8兆ペソ(約21兆円)超のインフラ整備を推進して巻き返しを図るが、時の政権に左右されない長期計画の策定も求められている。

「1980~90年代にインフラ整備に投資した東南アジアの近隣国と比べてフィリピンは30年遅れている」。ジョセフ・エヘルシト上院議員は先月下旬、経済界のフォーラムで国内の現状を嘆いた。

マルコス元大統領は86年まで約20年間にわたり長期の独裁政権を敷いた。経済政策が停滞して政権末期にマイナス成長を記録していた間に、周辺国がインフラ整備の土台を築いたことが最大の要因になっている。

国連貿易開発会議(UNCTAD)が7月発表した世界の海外直接投資(FDI)流入額を見ると、2022年のフィリピンへの流入額は92億米ドル(約1兆3,000億円)だった。東南アジア主要国の中で最も少なく、17年から各年で比較しても金額は相対的に小さい。インフラ整備への投資だけではないものの、投資先として国の魅力が大きくないことを映している。

フィリピンがインフラ整備を本格的に推進したのは10~16年のベニグノ・アキノ政権の時だ。マニラ首都圏にあるニノイ・アキノ国際空港(NAIA)第3ターミナルの本格運用が始まったのも同政権の時代だった。ただ汚職対策のための審査が厳しく、前進しなかった案件も少なくなかった。

ドゥテルテ前政権はインフラ支出額を対国内総生産(GDP)比で約5%と、ベニグノ・アキノ政権時の約2倍に引き上げた。首都圏の地下鉄や首都圏と周辺州を結ぶ南北通勤鉄道など大型案件が前進した。マルコス現政権もインフラ整備では前政権の政策を基本的に引き継いでいる。

一方で大統領の任期が1期6年に定められているため、時の政権にインフラ整備の方向性が左右されかねないとの懸念も出ている。

上院ではインフラ整備に関するマスタープラン(基本計画)策定に向けた法案が3月に提出され、現在は審議が進む。これまで複数あった同様の法案は一本化された。政権が交代しても公共事業が円滑に引き継がれるようにする狙いがある。

国家の長期的なインフラ整備計画が決まれば、外資誘致や雇用創出につながり経済効果も期待できる。多額の資金を援助する日本にとっても提案できる分野が増える可能性がある。

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