【京アニ公判速報】犠牲者36人中19人、異例の匿名扱い 負傷者も全員名前伏せられ

青葉真司被告の裁判員裁判の初公判が開かれた京都地裁の法廷

 36人が死亡し、32人が重軽傷を負った京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の初公判が5日、京都地裁で始まった。公判では、犠牲者19人、負傷者全員が匿名で扱われている。検察側は法廷で起訴状を読み上げる際、個別の被害者名を明示しなかった。午後からの審理でも、犠牲者の氏名を読み上げたのは17人にとどまり、残りの犠牲者と負傷者全員の名前を伏せてた上で、証拠を示した。殺人事件としては異例の「匿名審理」となっている。

 匿名化は、刑事訴訟法が定める「被害者特定事項」の秘匿制度に基づく措置。被害者側からの申し出に応じ、個人の特定につながる住所や氏名を伏せる。

 増田啓祐裁判長は午前の公判開始から、被害者の一部を匿名とすることを法廷で通知していない。

 一方、午後からの審理では、検察側が犠牲者の氏名や死因、負傷者らのけがの状況を示した際、犠牲者19人については「別表1の2」などと数字で呼んだ。犠牲者17人については、実名を読み上げた。負傷者については、全員が数字で呼ばれた。

 また、スタジオの燃焼状況を表す写真や図面が法廷のモニターに映し出された際には、被害者が所在していた場所を示すポイントに、被害者の実名が記されている場合と、「別紙の被害者」と記されていて名前が判別できない場合があった。

 今後の審理では、被害者の氏名などが記された調書の読み上げ、遺族など被害者側による心情や意見の陳述の際、秘匿対象者の名前が伏せられることが想定される。

 秘匿を希望した遺族の一人は、公判前の京都新聞の取材に対し、誹謗中傷の標的になることや取材が過熱することへの懸念を示し、「どんな影響が生じるのか、想像がつかないことが怖い」と話していた。

 同制度は性犯罪のほか、名誉や社会生活の平穏が著しく害される恐れがある場合に認められる。近年に注目を集めた裁判では、相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害された事件や、神奈川県座間市で男女9人が殺害された事件などで、被害者の氏名が秘匿された。

 京アニ事件の公判を前に、弁護士や研究者らでつくる「司法情報公開研究会」は8月、京都地裁に対し、氏名などの秘匿制度を適用するかどうかは慎重に判断するよう要望していた。

 起訴状によると、青葉被告は2019年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオに正面玄関から侵入し、ガソリンを社員に浴びせてライターで火を付けて建物を全焼させ、屋内にいた社員70人のうち36人を殺害、32人に重軽傷を負わせた、などとしている。

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