【インボイス制度】はなぜ必要なのか−−よゐこ有野「何でいまなんですか?」

お笑い芸人・よゐこの有野晋哉さんが、毎月さまざまな専門家をゲストに迎えて、お金の知識を身に付けていく「お金の知りたいを解決!お金の学園〜学級委員・よゐこ有野晋哉〜」。2023年9月は税理士の小島孝子先生に、インボイス制度について伺いました。


有野晋哉(以下、有野):コレをやらなあかんのはわかってる。けど、でっかいイベントが間近に迫ってきてるし、いまはそれどころやないねん。まぁ、やろうと思ってパソコンの前に座っても、どこからすればいいのか? ほんまにやらないといけないのか? 分かってないから、面倒になっていつでも出来るソリティア始めちゃうんやけど。

小島孝子(以下、小島):有野さん、はじめまして。税理士の小島です。

有野:今回は税理士さんが先生ですか! いい節税方法とか教えてくれるんですね?

小島:残念ながら違います(笑) 今回は、問題になっている「インボイス制度」についてお話ししたいと思います。

有野:おぉ~、ジャストタイミング!

小島:何か、インボイス制度についてお悩みのことがありましたか?

有野:いえ、松竹芸能からインボイスのための数字を教えてください、って言われているですけど、10月の終わりにさいたまスーパーアリーナで「ゲームセンターCX」の20周年感謝祭イベントが控えていて、それどころじゃないんですよ。インボイス制度って言われてもようわからんし。

小島:つまり、なにも対応されてないということですね……?(笑)

有野:率直に言ってしまうと、その通りです。何もしてません(笑)

小島:申請期限が9月末と迫っていますし、本当にジャストタイミングでしたね。今回は、「インボイス制度」の成り立ちから、何がいったい問題になっているのか、制度によって今後はどのようになっていくのか、などについて、お話ししていきたいと思います。

有野:自分じゃ何をすればいいのか全くわからなかったので、渡りに船です。よろしくお願いします!

インボイス制度の導入は2019年に決まっていた!

有野:早速ですけど、そもそもインボイスってなんですか? マイナンバーとは違うんですか?

小島:えぇっと、マイナンバーとは全然違うものですね(笑)

有野:なんでこんなにヤイヤイ言われてるんですか? 声優さんが「制度を止めてくれないと生きていけない」とか言うて、泣いてるニュースも見ましたけど、そんなに厳しいことなんですか?

小島:有野さんのように、ここ1年くらいで降って湧いたような問題だと印象を持たれる方が多いと思いますが、制度自体は2019年、消費税が8%から10%に引き上げられた時に、インボイスが数年後に始まりますよ、という法律ができていたんです。

有野:へ~、そうなんや。その時は、いまみたいな騒ぎは起こっていなかったですよね?

小島:当時は、店内での飲食は10%、テイクアウトだと8%という「軽減税率」が話題になっていました。お店側も、レジに軽減税率のシステムを導入しないといけないなど、対応に追われていて、それどころではなかったと思います。そのため、「インボイス」についてはほとんど話題になっていなかったのですが、裏では制度の導入に向け、着々と準備が進められていました。

有野:あ~、あったあった! 「新聞は8%やのに、オムツとか日用品は10%なのは不公平!」とか、イートインは10%で、テイクアウトは8%で、って話題になってましたね。いつの間にか、そういうのも言わなくなった。言うても変わらへん、って感じたら言わなくなる……人って慣れるもんなんやなぁ。

小島:そうですね。制度が始まってしまうと、反対をし続けても覆ることはほぼありませんし、そのうち諦めてしまうのかもしれませんね。先ほど、インボイス制度は2019年に導入が決まったというお話しをしましたが、元をたどると、実はもっと以前から話は始まっていたんです。

導入の目的は「税の取りこぼし」を解消するため

有野:え、もっと以前からって、明治維新からや! 坂本龍馬が「インボイスの夜明けぜよ!」って言ってましたね。

小島:だとしたら、坂本龍馬は先見の明がありすぎますね(笑) そこまでは遡りませんが、消費税が始まった頃、正確には消費税法が成立した1988年です。

有野:そんな昔なんや。1980年代後半といえば、バンドブーム! 友達がみんなバンド組んでて、みんな「メジャーになるで!」って言うてたなぁ。「有野と濱口は芸人で、俺らはバンドで東京行くで! そんで『夜のヒットスタジオ』で会おうや!」って言うてた同級生は早々にバンド辞めて、今はみんな会社立ち上げて社長になってましたよ。「え! お前も社長なん?」って、僕はまだ課長止まりで、課長って言うても部下は居ない。はぁ、偉くなりたい……すみません、話がそれました。会社からインボイスをやれやれってせっつかれていて、なんとなく拒否反応を示してもうてるんです(笑)

小島:確かにわかりづらい制度なので、そういう方は少なくないと思います(笑) 1988年に消費税導入が決まった時、すでにインボイス制度を導入する話は出ていたんです。そもそもインボイスは「適格請求書」のことで、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝えるものです。

小島:消費税は、海外の税制をそっくりそのまま導入したものなのですが、当時は消費税の導入自体に反対の声が多く、「1回1回の取引ごとに消費税の計算をしないといけないなんて、大手企業ならともかく、中小事業者は対応できない!」と言われていました。

有野:そりゃ、反対しますよ。最初の消費税は3%でしたよね? 3%だとどうしても金額に端数が出るやろうし、計算がめちゃくちゃ面倒で、駄菓子屋さんが大変やったなぁ。10円で買えてた駄菓子が、消費税ついて買えなくなる。店のおっちゃんは「子どもからは取られへんで」って、値段据え置きにしてくれてる店もあったなぁ。それでも「遠足のおやつは300円まで」のまんまやったもんな。

小島:おっしゃる通りです。消費税を導入して、さらにインボイス制度まで始めると、税金の計算でパニックが起きてしまいます。だから「消費税はやるけど、インボイスはやりません」となったわけです。ただ、詳しくは次回説明しますが、消費税を導入した際に事業者によっては消費税の課税対象とならない条件を定めました。そのため、課税事業者と免税事業者の取り引きの際、消費税額に差が生まれ、「税の取りこぼし」が発生していました。その取りこぼしを防ぐため、政府は何としてもインボイスを導入したいと思っていたんです。

有野:「税の取りこぼし」かぁ、そりゃ必死になるわな。でも、何でいまやり出したんですか?

小島:軽減税率が導入されたことで、請求書を見ても8%と10%、どちらの税率が適用されたのかわかりづらく、税額も計算しづらい。だから、きちんと税率と消費税額が明記された、適切な請求書が必要となり、インボイス=適格請求書の制度をやろうとなったわけです。

有野:最初は大変やろうし、いっぺんにやったら余計にややこしくなるから、いままで後回しにしてた、ってことですか。そう言われると仕方ないってなりそうやけど、そもそも消費税を導入してちょこちょこ上げて、8%と10%で分たりして、さらにややこしくしたのは政府でしょ。

小島:そうですね。インボイスの申請期限は当初、2023年の3月末までとなっていたのですが、混乱が起きてしまったので、9月末までに延期されました。このような混乱が起きるのは政府も前もってわかっていたはずですから、もっと事前に中小事業者に準備をうながしたり、導入に向けた支援制度を用意したりするなど、やり方はあったと思います。

取引先から圧力をかけられるケースも

小島:インボイス制度が導入される、だいたいの趣旨はおわかりになりましたか?

有野:なんで制度が始まるのか、っていう趣旨はわかりました。消費税が10%に上がったタイミングでやろうとしてたけど、消費税が浸透するまで先送りにしてくれてた。だけど、やっぱり税の取りこぼしを無くしたい、って事ですね。でも難しそうやし、「なんでやらないかんの?」っていう気持ちは、正直に言ってまだあります。みんなでほったらかしにしとったら、さらに先送りにならないですかね?

小島:率直にいうと、すべての事業者が「絶対にいますぐやらないとダメ!」というものではありません。業種や業態によって、事情も変わります。インボイスに対応せずにいたとしても、影響がほとんどないケースはあるでしょう。ただ、対応している事業者と対応していない事業者の間で、差が生まれる可能性も十分考えられるので、会社によっては「対応しておいたほうがいい」ということになると思います。

有野:差っていうのは、具体的にどんな差ですか?

小島:たとえば、会社員の経費の扱い。経費の計算では、レシートを経理に提出して、経理に経費として認められれば、自分の財布からの出費ではなくなるわけですよね。

有野:テレビ局員と食事に行ったら、今は領収書の裏に誰と行ったかも書かないといけないそうで、「有野とやったらお寿司もOKやねん」って言われました。「若手と寿司行って仕事に繋がるんですか? って言われたら、返す言葉ないもんな。居酒屋でいいか、ってなるねん、申し訳ないけど」って。食べる相手とお店のグレードで経費扱いしてくれない場合もある、って聞きましたよ。経理に経費で認められるって大事ですね。

小島:でも、インボイス制度が始まる2023年10月以降は、インボイス、つまり適格請求書を発行している事業者の領収書じゃないと、経費として認められなくなる可能性があります。

有野:えぇ~!? じゃあ、経費として認められるには、タレントのランクの前に、インボイスに対応してるお店じゃないとアカンってこと? ほな、経理としては誰と行ったかの前に、この店はインボイス対応してるかも見ないとアカンのか。ほな、経費で使ってる人らは経費扱いできる店の方に入るやん。「ここでいいか」って気軽にお店を使われへんようになるなぁ。

小島:あくまで「可能性」のお話しです。また、会社によっては、これまで通りの対応になるかもしれません。どのように対応するのか、会社によって判断が分かれると思います。

有野:そうなると、もしかしたら街の中華屋さんとかも、「冷やし中華始めました」の横に、「インボイス対応も始めました」って張り紙もしないと入ってもらわれへん!

小島:張り紙をするかはわかりませんが(笑) でも、たとえばお店を検索できるグルメサイトに、「インボイス対応」が新たに検索項目に加わったり、予約をするときに「そちらはインボイス対応店ですか?」などと質問したりするのが当たり前になるかもしれませんね。

有野:ということは、お店側からすると、宴会や接待で使うような経費のお客さんが多い店やと、インボイスに対応しておかんと、お客を確保するのが難しくなる可能性もある、ってことか。

小島:その可能性はあります。それに、仲卸などの業態では、インボイスに対応していないと「仕入税額控除」ができず、納税額の増加につながる会社が出てきます。つまり、即座に影響が出る会社と、そうではない会社が出てくるということです。

有野:周りの様子を見つつ、って感じか。

小島:ただ、フリーランスをはじめとした個人事業主なども、取引先から「インボイスに対応していないと取引しない」といった圧力がかかる可能性はありますね。もちろん、表立ってそのような言葉を使うことは考えづらいのですが、暗黙の了解を求められるケースは出てくるでしょう。実際、インボイス導入に関して取引先に不適切な圧力をかける企業が出ていることがニュースになっています。

有野:それが声優さんの会見のやつ、ってことか。インボイス入れてないと仕事は来ないし、入れたら収入は減るし……だから、個人事業主とか立場の弱い人にとって、影響が出るかもしれへんわけか。涙ながらに反対を訴える人がいるのもわかる気がします。

小島:さて、次回から実際にこれまでとどう変わるのか、具体的なお話しに入りましょう。

有野:さっきから先生が用意しはった資料の図解とかチラチラ見てんねんけど、全然わかりません(笑) 「ゲームセンターCX」で苦戦した『カイの冒険』より難しいかも。

小島:そのゲームの難易度はわかりませんが、できるだけ理解しやすいように頑張って解説します(笑)

次回(9月12日配信予定)は「インボイス制度の導入で何が変わるのか」について聞いていきます。

有野晋哉
1972年2月25日生まれ。大阪府出身。テレビやラジオ、CM、雑誌の連載などマルチに活躍。コンビで公式YouTube「よゐこチャンネル」も開設しており、幅広い世代から支持を得ている。自身が50歳を迎えた2022年に、お金にまつわる知識の大切さに目覚め、日々勉強中。

小島孝子
神奈川県生まれ、税理士。ミライコンサル株式会社代表取締役。1999 年早稲田大学社会科学部卒、2019 年青山学院大学会計プロフェッション研究科修了。大学在学中から地元会計事務所に勤務した後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、一般経理職に従事したのち2010 年に小島孝子税理士事務所を設立。税務や経理業務に関する執筆やセミナー講師の傍ら、街歩き、旅好きが高じて日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、「旅する税理士」。著書に、『会話でスッキリ 電帳法とインボイス制度のきほん(令和5年度税制改正大綱対応版)』(税務研究会出版局)、『ちいさな会社とフリーランスの人のための どうする?消費税インボイス』(税務経理協会)、『3年後に必ず差が出る 20代から知っておきたい経理の教科書』(翔泳社)など。

ライター:新井奈央

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