石木ダム うやむやなままの「買受権」 事業認定から10年、静観する長崎県 反対派も慎重

 行政が収用し10年たった用地を、住民ら元地権者が買い戻せる権利は発生するのか-。長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダムが国から事業認定されて6日で10年。この「買受権」を巡って、これまで県と市が議論を交わしてきたが、計画に反対する住民らが権利を主張する動きは見えない。県も「国に発生の有無は確認しない」としており、うやむやな状態が続くとみられる。
 土地収用法は、事業認定告示日から10年後に収用地の「全部を事業の用に供しなかったとき」に買受権が生じると規定。昨年9月、朝長則男前市長が石木ダムの推進大会で発生を危惧し、推進する市議らも「反対住民との間で新たな訴訟の火種をつくる」と懸念の声を上げた。市長と市議は県庁を繰り返し訪れ、大石賢吾知事に事業の促進を迫った。
 そもそも買受権が発生した判例はない。県は、住民による妨害で遅れているが工事は進んでいるとし、「買受権は発生しない」と一貫して主張。市と見解の相違が生じた。ただ、4月の市長選で初当選した宮島大典氏は、先月の定例会見で「(発生する)可能性は低いのではないか」と発言。県と歩調を合わせる姿勢を示した。
 実際に誰が権利を主張できるのか。県は2019年、住民13世帯の家屋を含む全ての未買収地約12万平方メートルを収用。直前の地権者数は支援者ら“一坪地主”を含め計376人いた。県が「主張できるだろう」とみる対象者はこの人々だ。
 現在、収用地の所有権は国に移り、それを管理する立場の県は「買受権の有無は国がまず判断すること」と強調。国と情報共有しているが、「見解は示されていない」とする。事業認定の20年後に買受権は消滅するとも規定されており、県は静観を続けるとみられる。
 一方、反対する住民や市民団体が買受権を主張する様子はない。用地の一部を所有していた会員らでつくる「石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会」(共有地権者の会)の遠藤保男代表は「買い戻すには多額の資金も必要」と慎重な考え。買受権を巡る県と市の議論については「結局は、ダムの必要性を世間にアピールするために市が持ち出したパフォーマンス。住民と真剣に向き合っていない」と指摘する。

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