【マレーシア】新システムで雇用パス容易に[経済] ジェトロセミナー、書類不備に注意

マレーシア入国管理局が6月に外国人駐在員の雇用パス申請のための新システム「エクスパッツ・ゲートウエー(XPats Gateway)」を始動したことで、同国での査証(ビザ)手続きがこれまでより容易になったことが、日本貿易振興機構(ジェトロ)クアラルンプール事務所主催のセミナーで明らかになった。ただ、書類の不備で申請が遅延するケースも見られ、申請前の事前準備が重要といえそうだ。

ジェトロ・クアラルンプール事務所は7日、「新システム導入後の雇用パス申請手続き—留意点と最近の動向—」と題したウェブセミナーを開催。ジェトロのプラットフォームコーディネーターでビザ実務に詳しいクォンタムコンサルティングサービスの竹ノ山千津子代表取締役が、新システム導入後の手続きや留意点を解説した。

6月に開始した新雇用パス申請システム「エクスパッツ・ゲートウエー」は、マレーシア・デジタル経済公社(MDEC)が管轄するIT関連企業や自治権を持つ東マレーシアのサバ・サラワク州を拠点とする企業を除く、全業種が対象となっている。

新システムでは、マレーシア経済への貢献度に合わせて各社をランク付けし、駐在員の受け入れ手続きにかかる日数を差別化する手法が取り入れられた。ランクは5段階に分かれ、上位ランクの「ティア1」と「ティア2」および政府が指定する重要産業では、審査日数が大幅に短縮される。竹ノ山氏によると、ティア1~2なら3日、ティア3~5なら3週間程度で雇用パスが取得できるという。

同氏によると、6月の新システム稼働前に、入国管理局の駐在員サービス課(ESD)から各社に、マレーシア会社委員会(CCM)のデータベース上で払込資本金や売上高などの会社情報を更新し、業種や監督省庁、本社所在地などを申告するよう指示があった。駐在員サービス課はこれらの情報を基に、事業内容や資本金、売上高、産業分野などからシステム上で自動的にランク付けしている。

自動選別のため、入管の係官などに個別でティアの変更を申し出ても原則的に受理されないが、実際には「会社委員会のデータベースに登録された売り上げが3桁間違っていた企業があり、ティア4からティア1へと格上げされたケースはあった」(竹ノ山氏)といい、手続きの円滑化には事前準備が欠かせないようだ。

マレーシアに進出する外資企業のうち、マレーシア投資開発庁(MIDA)などからプリンシプルハブ(地域統括本部)などのステータスが認定されれば、税優遇といった措置を受けられる。ただ、駐在員サービス課のシステム上ではそういった認定を受けている企業かどうかを判定できず、ティアの判別に反映されないという課題が指摘されている。竹ノ山氏によると、当局もシステム上の課題を認識しており、駐在員サービス課と投資開発庁が協議を進めているという。

■営業免許の取得・更新にも注意

新システムではまた、監督省庁からの「サポートレター」の取り扱いも変更された。

従来は、雇用パスの申請手続き中に駐在員サービス課がサポートレターを取得するタイミングを指示していたが、新システムでは申請前にエクスパッツ・ゲートウエーでサポートレターを取得する形となっている。申請に利用するポータルサイトは同じだが、所轄官庁で必要書類が異なる。

一方、従来サポートレターが不要だった業種(商社、販売、サービスなど)は引き続き、必要とされない。ただし、新設会社や営業ライセンスの更新で国内取引・消費省の認可を受ける場合、この手続きに2~3カ月を要することもあり、雇用パス申請のボトルネックになる可能性もある。スムーズに手続きを済ませられるよう、こちらも事前準備が欠かせないようだ。

竹ノ山氏によると、他の問題点として、雇用パスの手続きが短縮された一方で、配偶者などの扶養家族ビザ(DP)では発給が遅れることがあり、更新時に支障が出るケースもあった。ただ、全体的にみると、手続きにかかる日数は短縮されているようだ。

エクスパッツ・ゲートウエーは、新型コロナウイルスの流行などでビザ手続きが遅延したことについて、外資企業などから苦情が出たことを受け、導入された。マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)とジェトロ・クアラルンプール事務所が昨年実施した調査でも、3割超の日系企業がオペレーションにおける現状の課題に「駐在員ビザ・就労許可の手続き」を挙げていた。

セミナーでは、雇用パスの新システムのほか、ジェトロ・クアラルンプール事務所の海外投資アドバイザー、嶋田圭司氏がマレーシアのビジネス環境や優位点を概説した。

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