社説:NTT法見直し 防衛財源と分け議論を

 NTT法の見直しに向けた議論が、政府で始まった。

 同社に義務づけた全国サービスや政府の株式保有などを対象とする。松本剛明総務相が審議会に諮問した。

 自民党は、先立ってプロジェクトチームを設け、NTTの完全民営化も視野に検討している。党内では、全体の約3分の1を占める政府保有株を売却し、防衛増税を先送りするために用いる案が浮上している。11月にも株売却に向けた提言をまとめるという。

 NTTは通信の秘密や国民生活を支えるインフラを担う企業である。経営の在り方は、経済安全保障などにも影響する。

 時代に合わせた産業政策の見直しと防衛費の財源確保は、分けて考えるべきだ。株の「売却ありき」ではなく、通信サービスの将来を見据え、多方面から丁寧な議論が求められる。

 1985年に発足したNTTは、事業の公益性を重視し、全国一律の固定電話サービス網の維持や研究開発成果の公開が義務づけられている。他社を圧倒していた規模と技術を踏まえた措置だった。

 近年、携帯電話やインターネットが広く普及し、固定電話の利用者は減少している。全国サービスに伴う赤字額は年間500億円超に上るという。

 他方、同社は少ない電力で大量の情報を高速伝送できる次世代の光通信技術「IOWN(アイオン)」の開発を進めている。

 日本が抱える貴重な最先端技術とされるが、法律に従って研究開発成果を公開すれば、国際競争力がそがれるとの指摘が、見直し論の背景にある。

 技術革新や社会情勢の変化で、市場独占を防ぐ規制がそぐわなくなっているのは理解できる。

 ただ、全国サービスの見直しは採算性の低い地方での事業縮小や撤退につながる恐れが拭えない。

 通信インフラに優位性を持つNTTの規制緩和は、同業他社との公正な競争環境を損なう懸念もある。

 政府が保有するNTT株の時価総額は約5兆円とされる。自民党内では、値崩れせぬよう25年以上かけ年間2千億円程度を売却する案も出ている。

 だが、売却益は一過性の収入であり、保有株の配当収入も細っていく。防衛に求められる恒久財源にはなり得ないと認識すべきだ。

 政府保有の株は国民の財産である。政治的な思惑で安易に売り払うことは認められない。

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