社説:感染症統括庁 縦割り排し、次へ備えよ

 新型コロナウイルス禍を教訓に、今後の感染症危機への迅速な対応に備えねばならない。

 感染症対策の司令塔組織となる「内閣感染症危機管理統括庁」が、今月発足した。

 内閣官房に設置され、官邸主導で感染症流行による危機対応の企画立案や調整を一元的に担う。

 優先課題として、重大な感染症の発生時の対策をまとめた「政府行動計画」を1年ほどかけて見直す。これまでのコロナ対策を検証し、医療提供体制やワクチンの安定的確保、行動制限の基準などについて検討する。

 3年半に及ぶコロナ禍で、政府の対応は後手に回り続けた。

 感染者の急増に病床が逼(ひっ)迫し、患者が病院にかかれない医療崩壊の危機に直面した。検査体制やワクチン接種の立ち遅れ、マスクなど医療物資も不足した。

 感染拡大の防止と経済活動の両立を巡り、専門家と政府の意見対立も表面化し、混乱を招いた。

 同じような事態を繰り返してはなるまい。

 政府の有識者会議が昨年に行ったコロナ対策検証は、対象が限られて不十分だった。幅広く課題を洗い出して行動計画に反映させ、平時から「次への備え」を強化することが急がれる。

 とりわけ非常時に医療の人材や設備を集約し、総合的に差配する仕組みの整備は欠かせない。

 統括庁は立ち上げ時には60人程度の職員を配置し、危機に際して他省庁との併任も含め300人規模とする。前身に当たる「対策室」の看板の掛け替えに終わらぬよう、実効性を高めたい。

 感染症対策は医療・福祉に関わる厚生労働省や、自治体と調整する総務省、水際対策に当たる法務省、外務省など多くの省庁にまたがる。統括庁が迅速な方針決定や省庁間の調整を主導し「縦割り」行政を排せるかが問われよう。

 再編を進める専門家組織との連携体制や、役割の明確化も必要だ。

 司令塔発足に合わせ、厚労省は感染症の分析や保健所支援などを一体的に行う「感染症対策部」を設置。2025年以降には、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合した「国立健康危機管理研究機構」(日本版CDC)を設けるという。

 研究機構は、防疫や医療などの包括的な専門家組織として、科学的な根拠とリスクを含め、国民に分かりやすい知見の提供が期待される。時の政権に左右されない独立性の確保は必須だろう。

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