<大学サッカー>総理大臣杯決勝進出を奇跡とは言わせない!富士大FW松田空良が決めた値千金の同点弾

大学サッカーの全国大会・総理大臣杯準決勝が8日に宮城県石巻市内(セイホクパーク石巻フットボール場)で行われ、富士大(東北第2代表)は法政大(関東第6代表)と対戦。2-2で延長戦にもつれ込み、PK戦(4-3)の末に東北勢初となる同大会決勝進出を決めた。

今大会屈指のダークホース富士大はこの大会で初めて関東勢の強豪と激突!前半は相手の波状攻撃を浴びるも、粘り強いマークと泥臭い守備で相手の攻撃を食い止めた。だが後半25分に法政大DF渡邉光陽(3年、尚志高出身)のゴールで失点を許すと、続けて同29分に2得点目を奪われた。

だが大会前から富士大GK折口輝樹が「うちは逆境に強い」と言うようにここからの富士大は鬼のような強さを見せた。

後半35分に富士大MF芝西大希(4年、北海高出身)が左コーナーキックから頭で決めて反撃ののろしを上げる。

それでも残り10分での追加点が遠い。勢いに乗った富士大が猛攻を繰り広げるも、法政大も負けじと体を張った守備で食い下がる。そして試合終了間際でも富士大イレブンは決してあきらめなかった。後半49分に富士大FW松田空良(3年、青森山田高出身)が相手GKクリアボールを受けて冷静に右足でファーへ流し込んだ。

得点が決まると会場は大歓声に包まれ、東北開催の会場はまさに富士大ムード一色となった。東北開催のホームアドバンテージを得たイレブンは、延長戦も泥臭く戦い続け、PK戦を制して関東の名門を下した。

攻守に奮闘したFW松田(背番号11)

同点弾を決めた殊勲のヒーローは「クロスが絶対にこぼれてくると思ったので、準備していました。自分の前にちょうどこぼれてきてくれて、トラップして一瞬ゴールを見たときには、まず『上はないな』と思いました。ファーのほうがちょっと空いてたので、下を狙って打ったらちょうど抜けて。もう流し込むだけだったので決められて良かったです」と安堵の表情を浮かべた。

後輩に負けるわけにはいかない

ただ松田には苦い経験があった。2回戦の日本経済大戦(九州第1代表)でフリーで抜け出したが、シュートは枠へ飛ばなかった。

それだけに「出たときには絶対自分が試合を決めてやる」と覚悟を持って臨んだ試合で値千金の同点弾を決めた。そのため、取材時は喜び以上に安堵の表情が出たようだ。

松田の視線は既に決勝戦に向いている。「この大会でも0-2から逆転したこともありました。そこは自分たちの強みでもあるんですけど、優勝するためには最初に失点してしまうと苦しい状況になっちゃいます。あと1試合しかないんですけど、もう1回全員で気を引き締めてやっていきたいです」と気合を入れ直していた。

十和田市出身の松田は中学時代は、J2いわきFCのMF嵯峨理久を輩出したウインズFCでプレーし、高校サッカー屈指の強豪である青森山田高へ進学。

だが世代別代表やJリーグクラブアカデミー出身の猛者が集まる部内競争は激しく、3年次はBチームの青森山田セカンドでプレーした。

それでも背番号11は「青森山田は自分の下の代には代表クラスの選手がいっぱい入ってくる。学年が上がってもカテゴリーが上がる保証されていない。自分ができることは腐らず、ずっとやり続けるしかない。それが今日出たかなとは思います」と高校時代の苦労を乗り越えてチームを救うヒーローとなった。

対戦相手の法政大には高校の後輩で同大会トップスコアラーのFW小湊絆が出場していただけに、先輩として負けるわけにはいかなかった。

「(小湊は)自分の後輩になるんですけど、後輩が全国の舞台で活躍していて、自分も先輩としての意地というものがあるので。そこは負けてられない。結果を残せて本当に良かったです」と胸を張った。

この軌跡を奇跡といわせない

富士大の決勝進出は恐らくこの大会を知る大勢は予想できなかっただろう。松田は「自分も予想していなかったです(笑)」と目を丸くしていた。ただここまでの軌跡は決して奇跡ではない。

富士大は同大会でボールを保持される機会は多かったが、割り切った守備で光った。危険なエリアに侵入されれば、素早く球際にプレッシャーをかけてクリアまでの初動と判断が素早い。

チームとして目的がはっきりしている分、全員守備になったとしても意思疎通、連係の面でほころびは生じなかった。

3回戦の中京大戦では水溜りができるほどの劣悪なピッチコンディションだったが、富士大にとっては恵みの雨だった。中京大のパスワークは機能不全に陥り、サイドアタッカーのドリブルのキレも失われた。

そしてピッチコンディションが劣悪になろうが、イレブンの目的は変わらない。危険な位置に侵入させず、こぼれ球はクリアし続けた。

1回戦、2回戦は先制を許す局面もあったが、3回戦で手応えをつかんだ富士大イレブンたちは、準決勝でも大会屈指の攻撃力を誇る強豪法政大を2失点までに留めた。

試合を重ねるごとに攻撃から守備への切り替えの早さが上がり、目的を遂行するための球際での守り方や危機察知についても練度が向上している。

世代別代表経験者、高校サッカータイトルホルダー、Jリーグクラブ2種登録選手などエリートが集う名門大との一戦は、富士大イレブンの反骨心に火をつける。

高鷹雅也監督も取材後に「彼らのモチベーション、『止めてやるぞ』というのは功を奏してる面はあるのかな」と明かしていた。

東北学生リーグ1部でもこれまで今シーズンプロ内定4選手を輩出している仙台大に敗れ続け、2番手に甘んじてきた。

それだけに松田は「自分たちは東北も2位でした。対戦相手が決まったときも、相手を見て決めるんじゃなくて、ずっと自分たちはチャレンジャーということをチーム全体で意識してやってきました。ここまで来れて本当にうれしいです」と仙台大も到達したことがない決勝の舞台へとたどり着いた。

決勝に向けて松田は「ここまで来たらチーム全員が優勝したいと思っている。試合が終わるまでこの勢いのまま優勝したいと思います」と言葉に力を込めた。

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総理大臣杯を通じて成長を続ける富士大。快進撃の勢いそのままに東北勢初となる悲願の日本一に輝いてみせる。

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