【MLB】 サイヤング賞本命のスティール レジェンド左腕直伝の投球スタイルでリーグを席巻

写真:自身初のサイヤング賞へ向けて邁進中カブス・スティール

本命不在と言われるナ・リーグのサイヤング賞レースの中で、ジャスティン・スティール(カブス)が存在感を増している。

3年目を迎えた28歳の左腕は、現地9日のダイヤモンドバックス戦にて7回1失点と好投し、ナ・リーグの防御率のタイトルをブレーク・スネル(パドレス)から奪取。味方打線の援護にも助けられて最多勝レースも1位を走っており、これで現在リーグ二冠を手にしている。

オーソドックスな成績の存在感が未だに根強いサイヤング賞レースにおいて、もしスティールが投手二冠でフィニッシュできれば、サイヤング賞はほぼ目前だろう。

スティールは2年目の昨年に24先発で防御率3.18と頭角を現したが、まだ規定投球回をクリアした経験はない。シーズン前にサイヤング賞に推す声もほぼなく、スティールは正真正銘のダークホースだったと言える。

実はこのスティールのブレイクを大きく助けたのが、カブスのOBにしてレジェンドであるジョン・レスターなのだという。『ジ・アスレチック』のカブス番記者パトリック・ムーニーが取材している。

レスターは現在、MLBのコーチ業をしているわけではないが、2022年にたまたまカブスの試合でスティールの投球を見て、自身との共通点を多く見出したという。そこで現カブス監督であり、レスターとは2度の世界一を共に経験した盟友であるデビッド・ロスに連絡を取った。

レスターのアドバイスは簡潔に言うと「4シームをインコース低めに集めろ」というものだった。

「4シームを高めに集めて空振りを取る」のがトレンドであり定石となりつつある現代においては、逆を行くアドバイスかもしれない。だが、レスターは自身とスティールとの共通点から、あえてこのアドバイスを送ったのだ。

レスターの現役時代の代名詞は鋭いカッター。4シームとの球速差が少ないカッターを右打者のインコースに食い込ませ、逆のコースに投じる4シームやチェンジアップで打者を打ち取るのがレスターのスタイルだった。ある意味でスティールに自身の投球スタイルを伝授したと言って良い。

スティールの4シームはホップ・シュート成分が少なく、カッターのように変化するのが特徴だった。縦への変化量が大きく、浮き上がるような4シームを高めに集めるトレンドに倣うには不向きな球質の持ち主だったため、レスターはそれを見越してアドバイスを送ったのだろう。

4シームを低めに集め、決め球であるスライダーとの判別をより難しくするという新しい方針によって、スティールの4シームは改善。球威こそ約148キロと平凡ながら、被打率は昨年の.312から.266まで良くなった。

スティールは他にも現代のトレンドと相反する特徴を兼ね備えている。4シームを低めに集めるスタイルはもちろん、速球を減らせという指導をする球団もいる中で、球威の平凡な4シームを6割超投じる。残りの3割はスライダーを投じ、球種はほぼ2つのみしかない。シフト規制によって三振の価値が上がる中、彼の奪三振率9.00はタイトルを争う投手の中ではかなり平凡だ。

しかし、トレンドも何のその。スティールはレジェンドから伝授された投球スタイルによって、サイヤング賞への道を駆け上がっている。

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