ユーロやW杯でなくてもヨーロッパ王者は強かった…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©︎RFEF]

「へえ、やるじゃない」そんな風に私が感心していたのは日曜日、現在、絶賛開催中のユーロ予選のアゼルバイジャン戦でベルギー勝利の1点を挙げたのがカラスコだと知った時のことでした。いやあ、彼はこの9月のparon(パロン/リーガの停止期間)が始まると同時にサウジアラビアのエル・シャバブに移籍。今はお隣さんのGKクルトワもヒザの靭帯断裂で長期療養中なため、あまりベルギー代表のことは気にしていなかった私ですが、カラスコは開幕から3試合をアトレティコのスタメンとして出場し、まだ新天地では1回もプレーしていませんからね。要はリーガの競争力レベルを保って、代表戦に挑んだとなれば、テデスコ代表監督が信頼して使うのもわかりますが、問題はこの先も彼が同じレベルでいられるのかということ。

実際、これはスペイン代表にとっても他人事ではなく、ええ、先週金曜、ジョージア戦で先発したラポールも8月にマンチェスター・シティからアル・ナサルに移り、当地のリーグですでに3試合プレー。もちろん、6月のネーションズリーグ・ファイナルフォーの準決勝イタリア戦、決勝クロアチア戦でもル・ノルマン(レアル・ソシエダ)とCBコンビを組み、11年ぶりとなるスペインのタイトル獲得に貢献したDFですから、今回もデ・ラ・フエンテ監督に招集されたのは納得とはいえ、こちらも10月以降の代表戦でリピートできるかは微妙かも。幸いこのジョージア戦では特に大きなミスもなく、というか、正直、スペインの攻撃陣ばかりが注目される展開だったため、その議論は先送りされることになったんですが…。

そう、水曜夜にジョージアのトビリシに到着し、翌木曜はボリス・パイチャーゼ・ディナモ・アレナで前日練習。その前にあった記者会見でも現在、FIFAにより停職中のスペイン・サッカー協会ルビアレス会長が女子W杯優勝の表彰式でやらかしたジェニ・エルモーソ(パチューカ)へのセクハラ事件の後、協会総会でそのルビアレス前会長に女子代表のビルダ監督と共に熱烈な拍手を贈りながら、自分だけ解任を免れたせいもあったんですかね。相変わらず、引きも切らないそちら関連の質問を全て、「Mañana tenemos un partido importantísimo/マニャーナ・テネモス・ウン・パルティードー・インポルタンティシモ(ウチには明日、非常に大事な試合がある)から、私たちはそれだけに集中している」という言葉でいなしていたデ・ラ・フエンテ監督だったんですが、ジョージア戦が何もかも不問に処されそうな程のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)勝利だったから、私も驚いたの何のって。

それも手違いで、選手たちのサッカーシューズやGKグローブなどが入ったトランクだけが一緒の飛行機で来ず、前日練習はボールなしで、普通のスニーカーでできるストレッチや体を動かすゲームばかりだったというのに、キックオフ直後から、スペインはチャンスを作りまくっているんですよお。しかもただの空脅しに終わらず、前半22分にはもう、アセンシオ(PSG)のクロスをモラタ(アトレティコ)が頭で叩き込み、早い時間に先制点を奪っているとなれば、選手たちのただならぬ意気込みが感じられるってもんじゃないですか。

でもこれはほんの序の口にすぎず、その6分後にはガジャ(バレンシア)からパスをもらったファビアン・ルイス(PSG)がゴール前に送ったボールをクリアしようとしたクベルクベリア(アル・オクフドッド)がオウンゴールし、スペインは2点目をゲット。いえ、残念ながら、モラタのスルーパスを撃ったファビアンのシュートがGKママルダシビリ(バレンシア)の手を弾き、ゴールに入った時はVAR(ビデオ審判)により、モラタではなく、ファビアンのオフサイドでノーゴールにされてしまったんですけどね。折しも大雨が降り始めた37分、今回の代表合宿では直前のオサスナ戦での接触プレーで右耳をザックリ。傷を縫合したホッチキスの針が取れないよう、黒いヘッドギア着用でプレーしていたガビ(バルサ)も発奮することに。

ええ、敵をすり抜けてエリア前まで上がると、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)にパスを送り、そのシュートで3点目が入ったとなれば、もう勝負は決まった?でも違うんです。相手が気落ちしたところに畳みかけたのはモラタで、その2分後、ファビアンとのワンツーでエリア内から撃ち込み、とうとう前半だけで0-4になるって、え?これ、リーガ3節でアトレティコが弟分のラージョに0-7の大勝をした時より、得点ペースが早くない?となれば、そのすぐ後、オルモに続いて、アセンシオもケガで交代を要請。予定より早い時間にニコ・ウィリアムス(アスレティック)と共にこの9月の招集リストの目玉、若干16才のラミネ・ジャマル(バルサ)がピッチに入り、ガビの持つスペイン代表最年少デビュー記録を書き換えることになっても全然、余裕ですって。

そして後半は選手3人を交代したジョージアですが、そのうちの1人、チャクベタゼが3分に放ったシュートを、うーん、ザーザー降りの雨のせいで手が滑ったんですかね。GKウナイ・シモン(アスレティック)が取りこぼし、1点を返されて始まったんですが、どうやらラージョ戦で2ゴール挙げ、調子に乗りかけながら、代表合宿直前の4節、セビージャ戦が外れの集中豪雨警報で延期となったのがよっぽど悔しかったんでしょうね。20分にはミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)のアシストから、モラタが再び決めて、とうとう代表初ハットトリックを達成。これには当人も「Cuando tienes grandes jugadores al lado es más fácil meter goles/クアンドー・ティエネス・グランデス・フガドーレス・アル・ラドー・エス・マス・ファシル・メテール・ゴーレス(横に偉大な選手たちがいる時はゴールを入れるのがずっと容易い)」と言っていたんですが、それって、しょっちゅう自分のオフサイドでゴールが取り消されるのはアトレティコのチームメートが悪いってこと?

まあ、それは冗談ですが、おかげでますますセビージャ戦の延期がもったいなく思えたのはともかく、ジョージアのGKママルダシビリとはリーガ再開となるバレンシア戦でも対決しますからね。それだけにモラタが自信をつけてくれたのは有難いんですが、試合の方ではスペインのゴール祭りがいよいよ佳境に。ええ、22分にはウナイ・シモンが出したボールを受けたガジャがドリブルで上がり、繋いだニコが敵ゴール前まで侵入。6点目のゴールを挙げたかと思えば、28分にはそのニコがエリア内右奥から折り返したパスを合宿初日から懇意にしているジャマルがワンタッチでシュートして7点目を決め、デビュー戦でスペイン最年少得点選手にもなってしまうとは!

いやあ、15才だった昨季4月にバルサのトップチームでデビューして、今季はリーガ戦でも先発を経験。U21以下、U19、U17のスペイン代表弟分たちの間で奪い合いになっていた彼は今回、両親の母国であるモロッコ代表の勧誘に対抗するため、飛び級でA代表招集されたという経緯もあるんですけどね。まさか、ここまで大人に引けを取らない実力の持ち主だったとなれば、私も舌を巻くしかありませんが、グループ内で曲者扱いされていたジョージアに1-7で大勝したスペインは一気に4位から2位に上昇。

おかげでデ・ラ・フエンテ監督にも「Me siento fuerte por el apoyo de mis jugadores/メ・シエントー・フエルテ・ポル・エル・アポジョ・デ・ミス・フガドーレス(選手たちに支持してもらえて、自分を力強く感じる)」と笑顔が戻ってきましたしね。要はジョージアのサニョル監督も「この結果はウチが素晴らしい選手のいる代表、最近、ネーションズリーグに優勝したばかりのチームと対戦したから」と言っていたように、今のスペインはスキャンダルにも負けない強さがあるってことなんでしょう。これでファンも一安心できたかと思いますが、彼らは試合後、その足で飛行機に乗り、マドリッドに帰京。

翌日にはヒザを捻ったオルモと足を打撲したアセンシオの代わりにフェラン・トーレス(バルサ)とジェレミー・ピノ(ビジャレアル)の追加招集が発表され、ラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設で土曜夕方のセッションに加わっていますが、とにかく、火曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)からの次の相手はグループ最弱のキプロスですからね。ロス・カルメネス(グラナダのホーム)でも沢山ゴールを挙げて、地元のファンを喜ばせてあげたいところですが、さて。その日は丁度、これまで5試合全勝、孤高のグループ首位のスコットランドもイングランドとの親善試合で一息つくため、現在、勝ち点9ある差を6に縮めるいいチャンスとなるんじゃないでしょうか。

そして同金曜にはこの夏、ユーロ2023で準優勝に終わった後、リケルメ(アトレティコ)やカメージョ(ラージョ)ら大勢が卒業し、代替わりしたU21スペイン代表もユーロ2025予選でマルタに0-6で大勝。ゴールラッシュを続けて堪能することになったんですが、ふと見ると、21才の若い身空でセルタからアル・アハリに移籍したガブリ・ベイガが2ゴールを挙げていたなんてことも。こちらも先行きが気になるものの、とりあえず、20才のバリオスが、コケが負傷中のアトレティコでと同様、立派にボランチを務めているのがわかったのは収穫だったかと。月曜にはスコットランドと対戦して、最初の2節を終えるU21ですが、まずは好スタートが切れて良かったですよね。

え、てことは今週末、私はずっと自宅でTV観戦ばかりしていたのかって?いやあ、1部のリーガ戦がないため、日曜にはこれ幸いと2部の弟分、レガネスをブタルケに応援に行ったんですが、トビリシとマドリッドはかなり離れているにも関わらず、こちらも試合途中から大雨が降ったり止んだりを繰り返す、不安定な天候でねえ。それでも開幕戦でアンドラに0-1と惜敗した後、3連勝中だったボルハ・ヒメンス監督のチームは今季まだ白星のないウエスカに勢いの差を見せつけ、前半42分にはミゲール・デ・ラ・フエンテ(アラベスからレンタル)がエリア内右奥から送ったラストパスをミラモンが決めて先制。

後半32分にもCKクリアからカウンターを発動し、敵エリアまでドリブルしたフランケサが2点目を挙げて、手堅く2-0で4連勝としたんですが、ちょっと残念だったのは、せっかく1部直接昇格圏の2位に上がったのに、翌日曜にはサラゴサがカルタヘナに勝って首位復帰。そのせいでプレーオフ圏の3位に落ちてしまったことでしょうか。そうそう、このレガネスの試合時間は丁度、RFEF1部(実質3部)のRMカスティージャのリナレス戦と重なっていて、オンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)ではお馴染みの2元中継を実施。ラウール監督のチームは途中、1度は1-1と引分けに持ち込みながら、後半41分に1点を奪われ、2-1の敗戦でまたしても今季初勝利を挙げられなかったなんて報も。

そう、ラウール監督は先週火曜に電撃解任されたビジャレアルのセティエン監督の後任として名が挙がっており、マドリーサイドからもRMカスティージャはフベニルA担当のアルベロア監督を昇格させればいいと、反対の声も出なかったため、金曜にはほぼ就任確実とまで言われていたんですけどね。それがどういう訳が、彼がチームと共にリナレス(スペイン南部)に向かって出発した土曜午後にはビジャレアルがパチェコ監督との契約を発表。せっかくのリーガ1部で腕試しをするチャンスを逃した上、チームも負けてしまうというのは当人にとって、ダブルショックだったかと。

ちなみにその土曜には他にもマドリー関連の残念なニュースがあって、いえ、この週末に始まるリーガF(スペイン女子1部)の1節は選手労組とラ・リーガの最低賃金交渉が、年棒2万3000ユーロ(約370万円)を主張する前者と2万ユーロ(約320万円)を譲らなかった後者の間でまとまらず、スト決行という流れになっていたんですけどね。RMカスティージャがアウェイゲームなのをいいことに、開幕ベティス戦が予定されていたエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノでプレーするマドリー女子を見ようと駆けつけた多くのファンは待っても待っても両チームが現れず、すっぽかしを喰らうことに。

それだけでなく、スペインの女子サッカーは混乱の極みで、ルビアレス前会長事件の煽りもあって、W杯初優勝の殊勲者であるビルダ代表監督が解任された後、後任に彼の下で第2監督と務めていたモントセ・トメ女史が昇格したものの、先日、サッカー協会の構造改革がなされるまで、代表招集を受けないと声明を出した23人のワールドチャンピオンを含む、81人の女子選手はその決意を翻さず。そのため、15日に発表が迫っている女子ネーションズリーグ(22日にスウェーデン戦、27日にイタリア戦)の招集リストが作れず、クラブへの事前通告もできずにFIFAの定めた期限が過ぎたため、いざ呼ばれてもその選手の所属クラブは参加を拒むことができるのだとか。

うーん、最悪、まだコロナ禍が尾を引いていた2021年の男子ユーロの準備試合前、ブスケツ(現インテル・マイアミ)の感染でA代表がプレーすることができず。当時、デ・ラ・フエンテ監督が率いていたU21代表メンバーがそのままA代表を名乗って、リトアニアとブタルケでプレーしたみたいな手も使えなくはないと思うんですけどね。栄えある女子W杯現王者として、恥ずかしい試合を見せる訳にもいきませんし、このネーションズリーグは来年のパリ五輪の予選も兼ねているのが辛いところ。日曜の夜になって、セクハラをジェニ・エルモーソ当人からも司法当局に訴えられたルビアレス前会長がとうとう辞表を提出したというニュースが入ってきたとはいえ、これが女子代表チーム再建のキッカケとなるかどうかはまだわかりません。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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