台風13号に伴う大雨で茨城県北茨城市大津町を襲った浸水被害に、水産加工業者が頭を抱えている。同町周辺は大津漁港に近く、シラス加工が盛んな地域。各業者は2011年の東日本大震災から復興し、業績を拡大させてきた矢先の出来事だった。冷凍庫や釜ゆで機などの機械は水に漬かり、商品を含めた被害総額は、県に報告された2社で1億3千万円に上る見通しという。
同市大津町北町の水産加工業者「入万水産」では8日午後8時半ごろ、店の脇を流れる里根川から水があふれ始めた。
同社3代目社長の上神谷光男さん(51)は「あっという間に会社が浸水し、命の危険を感じた」。5分もたたない間に水位は膝に達し「流れもあり、まともに歩けなかった」。商品を棚へ上げる十分な余裕すらなく、急いで家に避難した。
同社では、冷凍庫や高圧洗浄機、変圧器、包装機械、シラスの釜ゆで機などが壊れ、被害額は少なくとも6千万円に上るという。
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出で需要に変化が表れるとみて開発してきた新商品も全滅。10日には第1便の出荷を予定していたという。
上神谷さんは「評価を楽しみにしていたのに」と悔しそうな表情を浮かべながらも、「まずは店内を清掃してから、壊れた機器の見積もりを出してもらう。なるべく早く再開したい」と前を向く。
同川沿いの「マルイチ仙台屋商店」の浸水は約1メートルだった。社長の鈴木均一さんによると、冷凍庫やはかり、変電施設などが壊れ、5千万円以上の被害に遭ったという。業務用冷凍庫の中も浸水。保管商品も処分を余儀なくされており、鈴木さんは「菌や汚れが絶対に許されない場所なので除菌を頼むが、費用がかさむだろう」と渋い表情だ。
同社加工場は、東日本大震災で屋根が崩落。12年がかりで復興させ、従業員も増やしながら業績を次第に拡大させていたところだった。
鈴木さんは「川が再びあふれるようなら、この場所では続けられない」と顔を曇らせる。それでも、「これまで何度も立ち直ってきた。命が無事なら何とでもなる」と気丈に振る舞った。
県や北茨城市によると、同市内を流れる里根川は8日夜に越水。一帯に水があふれ出た。大津町と関南町で、川沿いにあった水産加工の計11業者が被害を受けた。