処理水の海洋放出開始…風評被害、中国の対応に日本はどう対処すべきなのか徹底議論

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。8月28日(月)放送の「激論サミット」のコーナーでは、“処理水放出の重要性”について議論しました。

◆処理水放出…政府の対応に問題はなかったか?

8月24日、東京電力は福島第一原発の処理水の海洋放出を開始しました。政府は2015年、福島県魚連と「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と約束していましたが、現状では地元の理解が足りていたとは言い難い状況です。

事実、福島県いわき市の漁師・志賀さんは「漁業者の話に耳を傾けなかったというのが一番。組合に詳細な文書などがあってもいいんじゃないか。一言もそういう説明や文書が来ていない」と苦言を呈します。

加えて、岩手県の漁業関係者は「魚の価格が安くなるか、高くなるか、売れなくなる可能性もある」と不安を語り、いわき市の内田広之市長も「『理解醸成が実現した折には放出』と国・東電・我々で対話を続けてきたが、時間切れのようになってしまった。ハードルが高い約束だったと思う。その約束の設定の仕方がどうなのかなという感じはしている」と胸中を吐露。

そして、処理水放出にあたり大きな問題となっているのが"風評被害”です。キャスターの堀潤は「風評被害を煽っているのはメディアという声もあるが、僕もそう思う。なぜなら『心配だ』、『不安だ』という声だけを報道し、肝心の福島県産の旬の魚、どう食べられているのか、作っている人の思いなどの情報はほとんどない」と指摘。

タレントのREINAさんは「自分から情報を取りにいき、冷静かつ客観的に科学に基づいたデータを自分なりに調べ、購買活動につなげるしかない。それを意識したい」と消費者目線で自身の考えを述べます。

度々現地に赴き、直接漁業者の声を聞いてきたNPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんはさらなる問題に言及。それは日本の水産物輸入を禁止した"中国”への対応です。

大空さんは、「国内の消費を喚起すると同時に、科学的根拠を無視して風評被害を作っている国に対しての対抗措置をどうするのかを議論したほうがいい」と話します。

また、堀からは「政府はもっと早く地元に丁寧な説明をしてほしかった」との声が。なぜなら、いわき市の内田市長曰く、放出後3時間経っても国から直接的な連絡や説明はなかったそうで、堀は「なぜ放出前に、放出直後に連絡をしないのか」と憤ります。

お笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世さんも「それこそ岸田首相もパフォーマンスでもいいから現地に行けば信用が上がる。そういう部分が進歩していないことが驚き」と率直な印象を話します。

◆そもそも"処理水”とは?

現在"処理水”と呼ばれているものは正式には「ALPS処理水」と言い、放射性物質を含む汚染水からトリチウム以外を浄化処理したもので、海洋放出の規制基準を下回った状態にあります。そして、それを今回は海水でトリチウム濃度を国基準値の40分の1未満に薄め、東京電力福島第一原発沖、1キロ付近で放出。8月24日から約17日間かけて約7,800トンを流し、放出は30年近く続く計画です。

この処理水に関して、一部でトリチウム以外の放射性物質は本当に大丈夫なのかと危惧する声がありますが、福島県や環境省の公式サイトでは「セシウム137等のトリチウム以外の放射性物質についてもモニタリングを継続しています」など状況はしっかりと明示されています。

共同通信社が実施した世論調査によると「処理水の海洋放出を行った場合、風評被害が起きると思う」と回答した人は全体の約88%。そして、前述の通り風評被害の問題は国内にとどまらず、中国は日本産水産物の輸入を全面停止。香港は福島や東京など10都県の水産物輸入の禁止を決定。中国・香港への日本の水産物の輸出額は昨年約1,600億円で、規制が長期化すると水産関係者が深刻な影響を受けると見られています。

大空さんはこうした海外への影響に対し、改めて「政府の説明が十分ではない」と意見し、「なぜ風評被害が起きているかという原点に着目しないといけない」と指摘。風評被害の根源となっている国や政府、機関、そして人に「科学的根拠を盾に反論をしていくことが必要」と訴えます。

◆処理水放出は廃炉に向けて欠かせない

では、なぜ処理水を放出する必要があるのか。ひとつに処理水がすでに容量の98%に達していることもありますが、その具体的な理由について、今回番組では福島県・富岡町にある東京電力の「廃炉資料館」に行き、話を伺いました。

同館の木元副所長は「廃炉自体は被災地の周りに戻って来られる方々がいるなかで、いかに安全な状態に持っていくかが大きな目的になります」と前置き、「それを進めていく上で(処理水を溜めておく)タンクをずっと作り続けるわけにはいかない」と話します。

なぜなら、廃炉にするために取り出す燃料デブリを保管する場所や取り出すための機械のメンテナンスをする場所など、多くのスペースを確保する必要があるから。

処理水に関してのコミュニケーションを今後どうしていくべきかに関して、木元副所長は「地元の方々に資料館をご覧になっていただいたり、今まで情報が行き届かなかったところを丁寧に説明したい。一方通行にならないように交互に意見交換、やり取りをしながら多くの方に(情報を)ご覧いただけるようにできたら」と語っていました。

廃炉に向けての主な作業は「燃料や燃料デブリの取り出し」、「染水対策と処理水の放出」、「廃棄物の処分・施設の解体」などがあります。"燃料デブリ”とは、原子炉内部の燃料が溶け、さまざまな構造物と混ざり合ったもので、推定880トンあると言われていますが、内部の正確な情報が把握しきれず、現状では取り出しの目処もたっていません。

そして、政府や東電は当初、事故から最長40年かけて廃炉を完了させるとしていましたが、コロナ禍などもあり、最終的な展望は不透明なままとなっています。

山田ルイ53世さんは、これは自分たちだけでなく次の世代にまで及ぶ一大事業とあって「出発点の時点で風評被害対策とか、そうしたところは過剰なくらいきっちりとやってほしい。」と懇願。

大空さんは、今なお紛糾する中間貯蔵施設問題も含めて「やはり誰かが負担、誰かがリスクを取っていかないといけない。その押し付け合いをずっとしてきたわけで、それに対して政府や東電が『これは安全です』と科学的根拠一本槍で言っても、それはなかなか納得できない」と指摘。

その上で「何が求められるかと言えば、最終的には政治判断。政治というのは反対意見があっても決断によって物事を前に進めていく。そうでなければ政治の存在意義はない」と強調します。

REINAさんは「世代を超えていく計画になるので、もちろん不確定要素は多く、その間で技術の発展もあると思うが、例えば、処理水だけでなく廃炉のエンドイメージに関する議論は進められるし、そこに必ず必要になってくるのは地元の人の協力だと思う」と話します。

◆復興に向け、今後日本が行っていくべきことは?

番組X(旧Twitter)には「処理水排出で廃炉が進むんだって。不思議だね。」、「石棺化できないのかな?」などのポストが寄せられ、堀は「(処理水が入った)あのタンクをどかさないとその後の作業が進まない」と力説し、"石棺化”については「地元の人たちにとってあそこは帰る場所。だから、ずっと(処理水などを)固定化するような場所にしてほしくない」と望みます。

加えて大空さんは「周囲には土地が余っているのでそこに置けという声も(処理水の海洋放出)反対派からはあるが、どこも地元の人が手入れした土地を貸してもらっている。その地元の人たちの心を無視するわけにはいかない」と補足。

最後に、今回の議論を通して日本は復興に向けて何をしていくべきか総括。REINAさんの主張は「コミュニケーションの工夫」。「必ずしも科学的安全性が心理的安心や社会的安心につながるとは限らない。科学的データの発信は科学者にもできることで、政治家・政府ができることは国内外においてもう少し長期的なコミュニケーション戦略が必要」と語ります。

大空さんは、中国などの措置を考えるともはや福島だけの問題ではなく「日本の水産物、水産加工品全体に関する影響がある」と危惧し、「国内消費の喚起」を強調。消費者の生活も苦しいところですが、基金を作り、国の予備費も充てているだけに「予算をしっかりと使っていくと同時に消費に目を向けていく必要がある」と訴えます。

山田ルイ53世さんは、これまでネット上など一部で語られている処理水にトリチウム以外の放射性物質が残っているという噂に心配していたそうですが、今回、堀の説明を聞いてスッキリしたとし「メディアももう少しわかりやすく、ポジティブな報道をすべき。授業のような発信をしていただけるとありがたい」と切望。

最後に堀は「パブリックミーティング・プロセスに参加・サミット活用」と提言。当事者をいかに巻き込んでいくかという部分において、アメリカでは決定のプロセスにさまざまなステークホルダー、関係者が関わっていたそうで、これを日本も見習うべきと提案。

外交に関してもサミットなどを活用しつつ「太平洋沿岸地域(の国々が)みんなで決めればいいと思う。中国も北朝鮮もロシアもみんな呼べばいい。みんなで決めましょうと本腰を入れてやってほしい」と望んでいました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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