社説:損保ジャパン 辞任で幕引き許されぬ

 損保大手のトップが退く事態に発展した。

 中古車販売大手ビッグモーターによる自動車保険の不正請求問題で、損害保険ジャパンの白川儀一社長が辞意を表明した。顧客を軽視して利益を追求し続けた姿勢に批判が強まり、引責に追い込まれた。辞任は当然だが、トップの交代だけで済む問題ではない。

 白川氏は昨年7月、役員会議で保険代理店契約を結んでいたビッグモーターの不正行為の可能性に目をつむり、取引再開を自らが主導していたことを認めた。背景には保険契約が競合他社に流れる懸念があったとみられる。

 「軽率だった」「反発を恐れ、厳正な対応ができなかった」と経営判断ミスに言及したが、法令順守の意識を欠いたのは明らかだ。

 ビッグモーターでは修理時に従業員が車を故意に傷つけ、損保会社に保険金を水増し請求する不正が横行していたとされる。昨年3月ごろ、内部告発で発覚し、損保大手3社はビッグモーターに説明を求めていた。

 他の2社が不正を疑い、取引停止を継続したのとは異なる対応だった。契約者保護の観点から異論もあったものの、白川氏が押し切ったという。トップの判断とはいえ、他の経営陣も不正を黙認したのはシェア確保を優先する企業体質に起因するのではないか。

 損保ジャパンはビッグモーターが昨年度に取り扱った保険料約200億円のうち約6割を占めた。長年、多数の出向者を送り込んで深めてきた緊密な関係が不正の温床となったと言わざるを得ない。

 不正請求で自動車保険の等級が下がり、保険料が割高になった契約者もあり、顧客に対する裏切りとも言えよう。損保と車修理の「もたれ合い」構造の詳しい検証が欠かせない。

 親会社SOMPOホールディングスの桜田謙悟会長も、社内調査を踏まえて進退を明確にする意向を示した。グループトップとして監督責任は免れまい。

 保険制度の信頼を損なう由々しき事態であり、金融庁は19日に立ち入り検査に着手する。利益最優先の体質や企業統治の不備に徹底的にメスを入れてもらいたい。

 損保業界に限らず、最近、コロナ対策事業の受託不正や電力大手の談合など、違法な手段で利益を得ようとした企業の不祥事が相次いでいる。法令順守を軽んじて顧客の信頼を失っては、利益追求どころではない。いま一度、企業倫理の重要性を考える必要がある。

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