農泊推進実行計画 ~農泊地域への「年間延べ宿泊者数700万人泊」達成とさらなるインバウンドの受け入れを目指して~

~はじめに~

農林水産省では、農泊(農家への宿泊や農業体験に限らず、農山漁村地域に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」)の推進に向け、有識者委員による「農泊推進のあり方検討会」を開催し、昨年12月から議論を行ってきました。本稿では、本年6月2日に開催された「第7回農泊推進のあり方検討会」において取りまとめられた「農泊推進実行計画」の内容についてご紹介します。

~基本的な考え方~

本実行計画では、まず基本方針として、農泊推進施策が、500の農泊に取り組む地域を創出することを政策のアウトプットとして掲げた「草創期」から進展し、成果を示す「成長期」に移行すべき段階にあることが確認されています。その上で、令和7年度までに「農泊地域での年間延べ宿泊者数を700万人泊」とすること、そのうち「訪日外国人旅行者の割合を10%に向上させること」の2つを本実行計画上の目標として掲げています。

農泊地域の年間延べ宿泊者数は、コロナ前は一貫して増加し、令和元年度は約589万人泊だったところ、令和3年度には約448万人泊にまで減少しています。700万人泊はコロナ前の約1.2倍に引き上げることを目指すものです。

宿泊者数は、交流人口の増加のみならず、旅行者の滞在長期化、地域での消費額増にも寄与する重要な指標です。また、インバウンドの割合については、コロナ前の令和元年の全国値が約20%であったところ、農泊地域は約6%でした。農山漁村地域におけるインバウンドの受け入れを加速化させる観点から、これを引き上げることを目指しています。

~具体策~

これらの目標を達成するため、本実行計画においては、「農泊地域の実施体制を再構築する」「まずはわが農山(む)漁村(ら)に来てもらう」「いつも、いつまでも居て楽しめる農山(む)漁村(ら)にする」の3つの方向性に沿って、現下の農泊施策の課題を示した上で、それに対する具体策を示しています。

「農泊地域の実施体制を再構築する」

まず、「農泊地域の実施体制を再構築する」観点においては、

・コロナで疲弊した地域協議会の実施体制の再整備のための先進地視察やコンテンツ充実等への支援等によるコロナで疲弊した農泊地域の再始動

・自治体との連携により地域おこし協力隊員等の活用促進等を通じた人材の確保と育成

・いわば「農泊版 DMO」である中核法人を中心とした地域一体となった活動の継続や、「農泊の手引き」による地域における取り組みに際してのポイントの提示を通じた、地域全体に裨益する体制の確立

・農泊版DXの推進による生産性の向上

等を図るべきこととされています。

「まずはわが農村漁村に来てもらう」

また、「まずはわが農山(む)漁村(ら)に来てもらう」観点においては、

・農泊コンテンツ情報等を一元的・適時に集約したプラットフォーム構築等による、農家宿泊、農業体験だけではない「農泊」のイメージ刷新

・専門人材確保等を通じた地域自身によるマーケティング戦略の策定

・インバウンド拡大を図る地域のうち一定の基準に合致する地域を「インバウンド重点受入地域」として指定した上で、日本政府観光局(JNTO)とも連携した重点的な受入体制底上げ・集中的なプロモーションの実施を通じたインバウンドの地方誘客の促進

等を図るべきこととされています。

「いつも、いつまでも居て楽しめる農山漁村にする」

最後に、いつも、いつまでも居て楽しめる農山(む)漁村(ら)にする」観点においては、

・高付加価値な農泊モデルの早期確立や、空き家や廃校、ジビエの活用、JAグループとも連携した農業労働力支援人材の滞在促進など、地域課題解決につながる取組への支援等を通じた豊かな地域資源の活用

・成功事例の提示による更なる取り組み地域の掘り起こし

・関係各省庁、各部局が進める観光関連施策との連携や、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」のあらゆる場面における地域での消費機会の拡大、旅行者の滞在長期化・関係人口化の促進

等を図るべきこととされています。

~おわりに~

以上、「農泊推進実行計画」の概要をかいつまんでご紹介しました。全体については、ホームページ()からご確認いただくことが可能です。

いわゆるゴールデンルートから農山漁村地域へ、一歩踏み出す誘客を進めるに当たっては、行政機関や一部の観光事業者任せにするのではなく、地域の関係者がまさに自分ごととして農山(む)漁村(ら)の「しごと」の柱として観光を認識し、自ら立ち上がって農泊地域づくりを進めていくことが必要です。

農林水産省としては、令和6年度概算要求等を通じ、本実行計画において農林水産省が自ら進めるべきこととされている事柄に取り組んでまいります。また、農泊地域、関係事業者、関係省庁と力を合わせ、本計画において各主体に求められているアクションが適切に推し進められるような情報提供や支援を進め、令和7年度までの「農泊地域での年間延べ宿泊者数を700 万人泊」とすること、そのうち「訪日外国人旅行者の割合を10%に向上させること」の両目標達成を目指してまいります。

寄稿者 石井信(いしい・まこと)農林水産省農村振興局農泊推進室企画官(総括)

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