【映画『グランツーリスモ』インタビュー】ヤン演じたアーチー氏「ドライバーを尊敬する。もう二度と乗りたくない(笑)」

 いよいよ明日9月15日(金)、モータースポーツファン必見の映画『グランツーリスモ』(配給:ソニー・ピクチャーズ)が全国の映画館で公開となる。

 映画『グランツーリスモ』は、2008年に日産とプレイステーション、ポリフォニー・デジタルが共同で行ったドライバー育成プログラム「GTアカデミー by 日産×プレイステーション」(以下「GTアカデミー」)を舞台とするニール・ブロムガンプ監督制作のハリウッド映画。物語の主人公は、2011年の「GTアカデミー」でヨーロッパ王者に輝き、その後WEC世界耐久選手権や日本のスーパーGTなどで活躍したヤン・マーデンボローだ。

 今回、映画『グランツーリスモ』の公開に先立ち、ヤンを演じたアーチー・マデクウィ氏、映画の主人公となったヤン・マーデンボロー、そしてポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデントであり「グランツーリスモ」シリーズの生みの親、また映画「グランツーリスモ」エグゼクティブプロデューサーでもある山内一典氏の3名が日本のメディアに向けて質問に答えた(アーチー氏へのインタビューはアメリカの俳優労組ストライキより前に実施)。

 そこで、アーチー氏には実際にヤンを演じてみて感じたこと、ヤンには自分のキャリアが映画となった心境、山内氏には「GTアカデミー」発足当時の事を聞いた。

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──ヤン・マーデンボロー選手を演じてみていかがでしたかアーチー氏:ヤンさんを演じさせていただいたことは、特権だと思っています。ヤンさんの物語を語ること、スクリーンに命を吹き込む事ができるということは誇らしく、本当にワクワクしました。実在人物を演じるといううえでの緊張はありましたが、ヤンさんのものまねをするわけではなく、彼の魂やエッセンスをとらえて表現するということを意識して演じました。

──アーチーさんはこれまで、自動車レースを見たことはありましたか。アーチー氏:ありませんでした。今まで僕はカーレースにハマったことがなく知識もほとんどなかったです。ですが今回の撮影を通して、自分自身が実際に『こんなに肉体的に負荷がかかるのか、つらいものなんだ』と体験して以降、クルマやドライビングスキル、レース自体やドライバーに対して、新たな愛情をもって尊敬するようになりました。

 また、たくさんの人が関わって初めてレースができる、ということは、今回知ることができた素敵なことのひとつでした。たくさんの人々がサポートをし、そのおかげでドライバーたちはレースをすることができる。そこでやっと、このサーキットという場には、レーシングチームコミュニティがあるのだと気づきました。そのことがきっかけで、モータースポーツに対するイメージがより鮮明になりました。

リモートでのインタビューに答えるアーチー・マデクウィ氏

──ドライビングシミュレーターである「グランツーリスモ」で腕を磨き、実際にレースで活躍するヤンについてはどう感じていますか。アーチー氏:本当に素晴らしいことだと思います。ハリウッドの脚本家がヤンのキャリアを作り出したとしたら、あまりにも素晴らしい物語なので、『これは本当ではない』ときっと思ってしまうような話だと感じています。ヤン選手の努力は、情熱や決意、夢を持ち続けることがどういうことなのかを教えてくれます。周りからの『ノー』という声をたくさん耳にしながらも、自分の意志を持ち続け、何が起きても夢を追う努力をして実際に叶えた人なのですから。

──レーシングカーに乗り込んでの撮影はいかがでしたかアーチー氏:本当にすごい迫力でした。もう二度とレーシングカーに乗りたくないと思ったくらいです(笑)。というのも、本当につらかったんです。今まで自分が挑戦してきたことのなかで一番難しいことでした。本当にすごいスピードで、そのレーシングマシンに対して自分の体ができることは何もなかったです。ただ、レーシングカーの出す音、スピード、匂い、そのすべては本当に素晴らしかったです。一方でそれがまたあのクルマの内側の世界を思い出させるんです。そうすると、またつらい気分になってきて(笑)。自分とレーシングカーは愛憎の関係であったなと思います。

──日本のファンへ映画の見どころを教えてくださいアーチー氏:映画館で観て、この作品に没頭してインスピレーションを感じていただきたいです。この作品は、さらにそれ以上のものを与える力がありますし、感動的で、自分も頑張ろうと思える作品です。そのすべての感情を感じてほしいです。また、山内一典さんが映画にカメオ出演をしていますので、それも見つけてみてくださいね。

ヤンを演じるアーチー・マデクウィ氏

■ヤン「僕にとってのヒーローはコリン・マクレーだった」

──今回、ヤン選手ご自身の活躍が映画となりましたが、そのことについてはどのように感じていますか。ヤン:聞いていたことではありましたが、実際に映画になってみると、不思議な感覚です。映画というのは永遠に残っていくものですから、自分の名前が永遠に残るということでもあると思いますが、そのこと自体がどういった意味を持つのかはすぐには理解できそうにありません。ですが、自分のストーリーを世界に伝えるということは、とても恵まれていて幸運なことだと思います」

──『グランツーリスモ』でドライビング技術を磨いているころ、当時の憧れだったドライバーはどなたでしたかヤン:自分がインスピレーションを受けた人は、実は一人しかいません。何年も前に亡くなってしまっていますが、僕にとって子どものころからのヒーローはコリン・マクレーでした。彼は常にフルスロットルでドライブしていました。人間として、ドライバーとしても、短所のある人物であったかもしれませんが、常にフルアタックで挑むことが魅力なドライバーでした。

 彼が毎回フルアタックで強烈なドライブをする度に、レーシングカーに個性が宿るような気がしたのを覚えています。なので、日本で自分が「スーパーGT」などをドライブするときも、それにならって常にフルスロットル、フルアタックでした(笑)。

リモートでのインタビューに答えるヤン・マーデンボロー

──映画ではル・マンが舞台のひとつとなっていますが、ご自身が当時参戦されたル・マン24時間レースはいかがでしたか。ヤン:ル・マン24時間レースは一番好きなレースですが、今ではやり残したことがあるように感じています。もちろんいい戦いができたことは誇りに思っていますが、やっぱりナンバーワンになりたいですね。なので、将来はル・マン24時間レースに戻りたいです。

──日本のレースでの一番の思い出は?ヤン:2016年全日本F3選手権の岡山でのレースです。自分にとって、F3で初めて優勝することができたレースでしたし、20秒以上の差をつけて勝利することができました。その時は、『ついにF3を制覇することができた』と思いました。また、スーパーGTのGT500クラスで走ったことは大切な思い出です。カルソニックブルーのマシンで走った2017年と2018年のチームインパルでは、レジェンドであるオーナーの星野一義さんが、常にフルアタックで走れと言ってくれました。本当にいろんなことを彼から学ばせてもらいましたし、レーサーとして一番好きなレジェンドのひとりです。

──日本のファンへ映画の見どころを教えてくださいヤン:この映画は、レーシングカーに乗っているような感覚をどこまでも味わうことのできる作品です。また、家族の模様も描かれており、たくさんの光と闇が詰まっている重層的な映画となっていて、ここに自分の歩んできた人生、キャリアそのものがあります。東京も登場しますし、日本への言及もとても多いです。それは僕にとってとても重要なことでした。ぜひ映画館に足を運んで、この映画の世界とレーシングカーの魅力を楽しんでください」

実際にスタントドライバーを務めたヤン・マーデンボロー

■山内一典氏「GTアカデミーは、親心として常に心配していた」

──まず実際に映画をご覧になってみて、いかがでしたか。山内氏:素晴らしい映画になって良かったです。いい監督やいい脚本家、いいカメラマンにいいキャストと全てが揃わないと、いい映画はできないと思います。今回は、幸運に恵まれてそれが揃ったと思います。当時の雰囲気や景色、その場に居たいろいろな人たちの気持ちを思い出しました。

──「GTアカデミー」の成り立ちについて、教えていただけますでしょうか山内氏:私は2004年に、ニュルブルクリンク24時間レースを観に行きませんかと日産から招待を受けました。その際、発売されたばかりのフェアレディZで北コースを走る機会がありました。その時、日産のマーケティングダイレクターのダレン・コックス氏に会ったんです。彼から「『グランツーリスモ』のドライバーは、レーシングドライバーになれるだろうか」と聞かれたのを覚えています。そこで私は「絶対になれる、全く問題ないよ」と答えました。そこから、「GTアカデミー」のプロジェクトは始まっていきました。

──当時山内さんは「GTアカデミー」について、どういったことを感じていらっしゃいましたか山内氏:「GTアカデミー」は、親心として常に心配していました。やっぱりレースというものは危険が付きまとうものだし、次から次へと勝負に勝ち続けなければいけない。なので、何かあったらサポートしようとただただ心配していました。

 また、レースキャンプに集まったドライバーたちは、みんなそれぞれが素敵な人物なんです。それぞれの国や地域のトップなわけですからね。ただ、そのなかからひとりを選ばなければいけないという過程も、すごくヒリヒリしていました。本当にみんな才能があり魅力あふれる人達だったから…。だから、楽しんではいなかったなぁ(笑)。選ぶ事自体も苦しい面があるし、選んだからといってその次のキャリアやレースでトラブルが起こったらどうしようとか、いろんな心配がありましたね。

GTアカデミー発足当時の事を振り返る山内一典氏

──当時のヤン選手については、どう感じていましたか。山内氏:初めて会った時はあどけない若者でしたけれども、落ち着いていてオーラを持っていました。なので、特別な人物だなということは直感的にわかりましたね。走っているところとしては、彼のドライビングスタイルは最初からアグレッシブでした。

 あと、うち(ポリフォニー・デジタル)の東京スタジオにヤンが遊びに来ていた時、ちょうど居合わせた中谷明彦さんが「なんか、彼大物になるね。オーラがあるよ」とおっしゃっていました。それから、実際に彼がデビューしてみるといきなり速かった。そういったところを見ていて、ホッとしたのを覚えていますよ。

──「GTアカデミー」から得た新たな気づきは何かありましたか。山内氏:この取り組みを通じて私は、リアルモータースポーツの世界を知ることができました。それまではあくまで観客の目線でレースを観ていたけれども、「GTアカデミー」は思いっきりレースをする側の立場でしたからね。

また、世界中のトップである素晴らしい人物たちが出会う場として、「GTアカデミー」は素晴らしいプロジェクトだったとも感じました。僕らは今、「グランツーリスモ」の公式世界大会である「グランツーリスモ ワールドシリーズ(GTWS)」という形で第二の時代をいわば作っています。これはeモータースポーツの大会なので直接リアルカーレースと直結はしていませんが、それでも「GTWS」でトップに上がってくる選手のなかには、eモータースポーツと並行して自力でスポンサーを見つけリアルカーレースに参戦を続ける選手も出現しています。何よりそれぞれ違った魅力を持った人物たちが国境や地域を超えて友達になっていく、その景色はやっぱり素晴らしいですから、これからも続けていけたらと思います。

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 この映画は、ヤンがプロレーサーになるという夢を追う姿はもちろん、これまであまり知られてこなかった来日以前の活躍にフォーカスしている作品となっている。また、「グランツーリスモ」シリーズにちなんだエフェクトや、大迫力の音響、ドローンを使用したダイナミックな走行シーンなど、バトルを繰り広げるレーシングカーの映像も見どころだ。

 モータースポーツ好きはもちろん、あまりレースを知らないという方でも気軽に自動車レースやレーシングカーの魅力を楽しむ事ができる映画『グランツーリスモ』(配給:ソニー・ピクチャーズ)は、いよいよ明日9月15日(金)に全国の映画館で公開だ。ぜひ、お近くの映画館に足を運んで、映画ならではの音響と映像、そしてレーサーになるために奮闘するヤンの魅力を楽しんでほしい。

映画『グランツーリスモ』9月15日から全国の映画館で公開開始

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