社説:児童虐待最多 未然防止の対策強化を

 児童相談所(児相)の対処力強化とともに、未然の防止策の充実が求められる。

 全国の児相が子どもへの虐待として対応した件数は、2022年度に21万9170件(速報値)となり、32年連続で過去最多となった。前年度比で1万1510件(5.5%)増えた。

 京都府は5122件(うち京都市2257件)、滋賀県は2187件だった。

 暴言や態度などで心を傷つける心理的虐待が全体の6割を占めた。家庭内に子どもがいる状況で家族に暴力を振るう「面前DV」が目立つ。

 子どもが亡くなる事件も後を絶たない。

 奈良県橿原市では4歳女児が暴行を受け死亡し、母親の交際相手が傷害致死容疑で先週に逮捕された。市は虐待が疑われる要支援児童としていながら、交際相手から聞き取りをしていなかった。

 児相や自治体担当者の適切な対応や判断が、子どもの命を守る要になる。だが、相談件数の増加に伴い、児相や自治体担当者の負担は増すばかりだ。

 厚生労働省は昨年末、一時保護などに取り組む児童福祉司を24年度までに約千人増とし、心のケアにあたる児童心理士も大幅増員する計画を示した。専門性や資質の向上、支援体制を充実し、着実な確保を図りたい。

 保護した子どもの受け皿も不足している。

 児童養護施設だけでなく、里親家庭で暮らせるような環境づくりも重要である。より専門性の高いケアが必要な子どもを受け入れる施設に対し、財政支援も検討すべきだろう。

 虐待の予防や潜在リスクの発見も重要となっている。

 国は昨年、児童福祉法を改正し、訪問型の家事支援や子どもの送迎サービスなどの事業を新設した。妊産婦や子育て世帯への相談支援を一体的に行う「こども家庭センター」の設置も、市町村の努力義務となった。自治体には積極的に取り組んでほしい。

 虐待行為は、親自身が幼少期に虐待を受けていたり、孤立して子育てしていたりと困難を抱える人たちの割合が高いとされる。

 21年度に虐待で死亡した子ども(心中を除く)は50人で、0歳が半数近くを占めた。

 出産前から気軽に相談でき、産後の子育ての不安にも寄り添えるよう、切れ目ない支援を整えたい。経済的に困難なケースでは、生活や就労援助も必要だろう。

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