『ゆうちゃん』と歩んだ27年 交通事故で祖父を亡くした女性 腹話術で子どもたちに訴える「命の大切さ」

長年、腹話術で子どもたちに交通安全を訴える女性がいます。祖父を交通事故で亡くしたこの女性は、「一度亡くした命は戻らない」と子どもたちに伝え続けています。

腹話術をする 出野敏子 さん
「道路を歩いているときに1番事故やけがをした人が多いんだって」
『どこで?』
「どこでって、道路」
『悪い道路だね』

安佐北区の幼稚園で開かれた交通安全教室です。子どもたちに交通マナーを教えるのは 出野敏子 さんと5歳の男の子『ゆうちゃん』です。

出野敏子 さん
「右、左、右、車がいなかったら手をあげて渡りましょう。わかった?」

道路で遊んだり、飛び出したりしないことなど交通事故に巻き込まれないための交通ルールをわかりやすく伝えます。

参加した園児
― 何が大切?
「右と左を見て、気を付けて渡ること」

腹話術を始めたのは今から50年前のことでした。小学生の時に見た腹話術が印象に残り、忘れられなかったという出野さん…。大学卒業後に静岡県で開かれた2泊3日の研修会に参加します。必死に練習し、研修後には声が出なくなるほどでした。

出野敏子 さん
「缶詰になってそれだけがんばったんだから、わたしも人形を抱きたい!と思って」

そして、『ゆうちゃん』と出会いました。その後、子ども会などで腹話術を披露していましたが、1996年に安佐北区の地域の人から勧められて、交通安全のボランティアに参加しました。

『ゆうちゃん』と一緒に小学校や幼稚園などで交通安全を呼びかけて、27年になります。ボランティアを続ける理由を尋ねると…

出野敏子 さん
「根本的なこと、なんですか?と言われたときにやっぱり祖父の事故死かなと思う」

ボランティアを始める数年前、出野さんの祖父が道を歩いていた際、車にはねられ亡くなりました。90歳を過ぎても元気に過ごしていた祖父との突然の別れでした。

出野敏子 さん
「交通事故というのは周りの人もそうだけれど、本人ももっと生きたかっただろうにと思う。突然、(命が)奪われてしまうじゃないですか」

さらに、去年10月、心を痛める事故がありました。出野さんが住む安佐北区で居眠り運転の車に小学生がはねられて亡くなりました。

出野敏子 さん
「みんな、これから(将来を)楽しみにしていたと思うとたまらない。わたしができることは限られているが、『ゆうちゃん』と交通安全を伝えていけるのはうれしいことだし、子どもたちには元気に大きくなってほしいと本当にそう思う」

今月8日、出野さんと『ゆうちゃん』は27年間にわたり交通事故の抑止に貢献したとして警察から感謝状が贈られました。

安佐北警察署 竹重幸司 署長
「交通安全は教えるの難しいが、2人の力のおかげで子どもたちは分かりやすく楽しく交通ルールを学ぶことができている」

出野敏子 さん
「交通事故でけがをしたり、お亡くなりになられたと聞くのは嫌なので、少しでもみんなが自覚して事故が減ればいいなと思う」

表彰式が終わったあと、『ゆうちゃん』にも話を聞きました。

ゆうちゃん
『うれしい。恥ずかしいよ』

― これからも出野さんと活動を続ける?
『仕方ないね。これからもあの人とやっていかないと』

2人の関係について聞くと…

出野敏子 さん
『なんだろう』
「なんだろう。答えられないね、相棒か」
『相棒?』
「相棒かも分からないね。わたし1人ではできなかったし、ゆうちゃん1人でもできなかったし」
『それはそうだね』

出野さんは、子どもたちに必ず投げかける質問があります。

出野敏子 さん
「みんな、命っていくつあるか知ってる? みんな、1個よね。1個の命を大切に大きくなってください」

わたしたちの世界は、ゲームや童話のように一度亡くした命は戻らない―。それを伝えたいといいます。

出野敏子 さん
「(交通)ルールは守ってほしいし、自分の命は自分で守ろう。小さなときから分かるように伝えていくというのは大事ではないかなと思う。みんな、元気で大きくなってね!」

出野さんと『ゆうちゃん』は、今後も二人三脚で子どもたちの幸せを願い、活動を続けていきます。

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