社説:阪神18年ぶり優勝 関西を歓喜に包んだ「アレ」

 9月に入って11連勝の快進撃。まさに「アレよアレよ」という間の栄冠である。

 プロ野球阪神タイガースがセ・リーグ優勝を決めた。18年ぶり、6度目の制覇が本拠地の甲子園で達成された。「六甲おろし」の大合唱が巻き起こり、関西各地の繁華街もファンの熱気に包まれた。

 パ・リーグでもオリックス・バファローズが3連覇に向け独走しており、日本一をかけた「関西対決」への期待も高まる。

 2005年の前回優勝に導いた岡田彰布監督が、15年ぶりに監督に復帰してわずか1年。何よりその手腕が評価されよう。

 昨季のチームは、防御率がリーグ唯一の2点台だったが、失策86は最多で、3位にとどまった。そこで岡田監督は「守り勝つ野球」を掲げ、徹底してこだわった。

 中野拓夢選手を遊撃から二塁に転向させ、遊撃に引き上げられて「恐怖の8番」としても覚醒した木浪聖也選手とともに、守備の要となった。投手は若手を抜てきし、先発と救援陣を分厚くした。

 攻撃面では連打に頼らず、四球を「ヒットに等しい」と重視した。球団には四球の査定アップまで求め、全球団で最多の452四球を選ばせたのは岡田采配のたまものだろう。3割打者は1人もいないが、4番に固定した大山悠輔選手を軸につながりが得点を生んだ。

 強いところは生かしつつ、弱点にしっかり向き合う。野球以外の組織にとっても示唆に富む采配だったのではないか。

 もう一つ、忘れてならないのは「アレ」である。

 「優勝」と言わず「アレ」と表現した。意識し過ぎないようにオリックス監督時代に始めたそうだが、ユーモアがほどよい一体感を生み、ファンも巻き込んだ渦となった。

 新型コロナウイルスの行動制限撤廃を踏まえ、声出し応援が解禁されたこともチームを鼓舞したに違いない。

 関西では共通して盛り上がれる明るい話題として、阪神が果たす役割は大きい。関西地域での経済効果は約872億円とする試算もある。優勝セールなどが早速にぎわっている。

 一方で、野球を取り巻く環境は変わってきている。テレビの地上波で、プロの試合中継の影が薄くなって久しい。観客動員数は好調でも、競技人口は減っており、特に学校の部活ではサッカーやバスケットボールの人気に押されているようだ。米大リーグの大谷翔平選手の活躍とともに、阪神の復活が裾野を広げるきっかけになるといい。

 毎度問題になるのは、一部のファンの騒ぎである。大阪の道頓堀川に飛び込む人が相変わらずいたようだが、過去と比べると、大きな混乱はなかったという。関西ならではの歓喜の文化もつくりたいものだ。

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