「妻は泣き叫び 私も泣き崩れ…」中2男子生徒死亡 遺族が語る2年半後の “いじめ認定” 調査委員会「学校は訴えを軽視し対応せず」広島

おととし、広島県呉市で当時、14歳の男子中学生が列車にはねられて死亡しました。現場の状況などから生徒は自ら踏切に入ったとみられています。

なぜ息子は自ら命を絶ったのか―。今月、有識者でつくるいじめ問題調査委員会は亡くなった生徒について、学校の友人らから「いじめがあった」とする報告書をまとめました。

「いじめ」の認定を受け、父親がRCCの取材に胸の内を語ってくれました。
(以下、調査委員会で事実認定された報告内容と、父親の証言による)

「明るく優しい子」中学生になって現れた“異変”

生徒の父親
「早産だったこともあり、1400gほどの小さな赤ちゃんでした。もともと体は強い子ではなかったんですが、心配をよそに、小学生のころには周りの子らと変わらない、元気で明るくて優しい子に成長しました。茶碗洗いや洗濯物の取り込みを手伝ってくれる母親思いの子で、当時、はやっていた漫画の続きが出るのをいつも楽しみにしていました」

思い出を語る父親の自宅には、遺影のそばに「ワンピース」や「呪術廻戦」などの漫画本、家族写真が並べられていました。

家族が生徒の異変を感じ始めたのは、亡くなる1年ほど前のことだったそうです。

生徒の父親
「明るかった性格が少し暗くなったように感じて…。1年生のときに家出をしたんです。驚いて、まさかと」

生徒は家族に置き手紙を残していました。「友達との関係で学校に行きたくない」と綴られていました。生徒はその日のうちに見つかりましたが、本人と家族の意向もあり、相手生徒への聞き取りはありませんでした。

一部の友人との関係は2年生の秋頃からさらに悪化し、登校を嫌がることが増えたということです。

妻には「見ない方が良い」と伝えた それでも妻は「会いたい」と…

12月、授業中に教員から指名されて発言を求められた生徒が突然、泣き出したことがありました。生徒は授業後、教員に対して友人らからの仲間はずれを打ち明けましたが、担任は本人の「大丈夫」という言葉と「仲良しグループ」という印象から、特別な対処はしませんでした。

年が明けた2021年1月、登校中の生徒は「忘れ物をした」と一度自宅に戻り、制服から私服に着替えると踏切に歩いて向かい、その後、列車にはねられました。

父親は母親からの電話で生徒が亡くなったことを知りました。

生徒の父親
「冬休み明けに少し登校したあと、何日か休んで…その日、やっと学校に行こうねとなった当日でした。(妻から)『息子が死んだ』と。『近くに携帯電話が落ちていたから間違いない』と言われ…。息子は、頭に包帯が巻かれ、体中に傷がありました。私が最初に確認して、妻には『見ない方が良い』と伝えました。それでも妻は『会いたい』と…。妻は泣き叫び、私も泣き崩れました」

生徒が着替えていた私服は、父親がクリスマスプレゼントに贈ったものでした。

生徒の父親
「上下の服と靴、全部クリスマスにプレゼントしたものを着ていました。気に入ったと聞いていたので、一番お気に入りの服を着て、最後を迎えたのかな…」

遺書はありませんでしたが、列車が記録したカメラには、直前まで踏切近くの植え込みにうずくまって、自ら遮断機をくぐる生徒の姿が映っていたそうです。

教育委員会による調査は「いじめとは判断できない」

友人関係で悩んでいた息子はいじめられていたのではないか―。

遺族の依頼を受け、教育委員会と学校が実施したアンケート調査や聞き取りから、生徒が一部の友人らから過去の失敗を揶揄されたり、宿題の未提出を巡って仲間はずれにされたりしていたことが分かりました。しかし、教育委員会が出した結論は、「いじめがあったとは判断できない」というものでした。アンケート結果と聞き取り内容にずれがあることなどが理由でした。

生徒の父親
「(教育委員会から)『これで調査は最後です』と言われ、これで終わりなのかと。アンケート結果を見るとどうしてもいじめがあったように感じました。『今後、どうしたらいいんでしょうか、第三者委員会の設置はどこに言えば良いのでしょうか』と尋ねて、はじめて『(教育委員会から)では設置しましょう』ということになりました」

遺族の要望を受け、市は有識者からなる「調査委員会」を設置。調査は去年4月から続けられ、報告書が今月7日に公表されました。

調査委員会が「いじめ」を認定 学校の対応を問題視

調査委員会の報告書は、次の3つの事実を「いじめ」と認定しました。

▼生徒の過去の失敗について噂になり、数人から揶揄されるような呼び方や仲間はずれがあった
▼生徒の宿題未提出について執拗に注意が繰り返され、生徒がいる場所から友人らが一斉に逃げるなどの仲間はずれがあった。LINEグループが消され、個人LINEがブロックされた。
▼誹謗中傷の言葉をかけられた。LINEで生徒をバカにするようなスタンプが送られた。

報告書では黒塗りにされていましたが、友人らから「お前は嫌われているけん、こっちに来るな」「自殺したらいいのに」という内容の発言があったことも認められています(関係者への取材による)。

父親は、いじめが認められたことについて「正直言って驚いた」と語りました。

生徒の父親
「教育委員会の調査結果もあったので、調査委員会の報告書についても、半分あきらめていました。(いじめが)認定されることはないのだろうと。そうだとしても一区切りになれば良いと思っていました。だからこそ驚いたし、私たち家族にとってようやく一つの答えを得ることができました」

報告書は、学校の対応についても厳しく問題視しました。生徒からの訴えを「軽視」し、関係生徒への聞き取りなどを行わず、いじめに「気づく機会があったと考えられるがその機会を逸し、特段の対応をおこなった形跡が見当たらなかった」としました。

生徒の父親
「これまでうやむやだったものが息子本人の心情をくみ取っていただいた。息子には『辛かったね、苦しかったね、痛かったね、ごめんね。認定がとれたよ』と仏前に報告しました」

最後に、調査委員会は生徒の死亡について、いじめの内容や時期などを総合的に考えると、「関連性が認められる」と結論づけました。

学校と調査委員会の「いじめ」の定義に温度差?

なぜ教育委員会と調査委員会の「いじめ認定」に差が生じたのでしょうか。過去、別のいじめ問題で調査委員を務めた広島修道大学の 西野泰代 教授は「いじめの定義」の認識に違いがあったのではないかと指摘します。

広島修道大学 西野泰代 教授
「本人がされて嫌だと思うようなことが起これば、それはいじめです。ですが、個々の先生のいじめに対する認識に温度差のようなものはきっとある」

10年前に施行された「いじめ防止対策推進法」では、本人が傷つき、「心身の苦痛」を感じれば「いじめ」だと定義しています。調査委員会は「いじめ」とは、何がどう行われたか以上に対象の児童生徒が傷ついているどうかが重要な判断要素だとしました。

父母の複雑な胸中…「笑顔を取り戻さなければならない」「恨みより許しを…」

今回、生徒の母親も父親を通じて、思いを文字にしてくれました。

「今でも毎日息子のことを思い、涙が出ます。どうして自分が生きて、息子が死ななければいけないのか、代わりに死ねたらどんなに良かったか。毎日自分を責めていました。息子は優しい子でした。私が泣くと、きっと息子は自分のせいだと自分を責めるだろうと思いました。だから息子のためにも残された家族に笑顔を取り戻さなければいけない。なんとか日常を取り戻さなければいけない。いつまでも泣いていてはいけない。家族で必死に励まし合い、助け合いながら今まで過ごしてきました。今でも、息子の代わりに死ねるならすぐに代わってあげたいという気持ちです」

父親は「今は許すことも必要なのかなと感じている」と話します。

生徒の父親
「関係した生徒から謝罪などの機会があれば、恨むということよりも、許すということができたら互いにとって良いことなのかもしれないと感じています。言葉は人を殺すこともある一方で、人を救うこともできる。そんな優しい言葉があふれる世界になれば息子も喜ぶと思います」

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